プロの制作プロセスで学ぶ~ロゴデザインのケーススタディ

ロゴのスケッチとデザインプロセス

ポーランドのLukasz Ruszel 氏は、10年以上のデザイン経験をもつロゴとブランディングに特化したデザイナー。彼のロゴデザインにおける基本ルールは、デザインの基本原則に則ったシンプルなデザインに忠実であること。一時の流行や時流に流されることなく、普遍的で美しく、品のあるデザインを心がけ、あらゆるアプリケーションに対応できるよう設計されています。

今回は、そんな彼がロゴデザイン制作に際し、どのようなステップでプロジェクトの完成まで歩んでいくのかを詳細なプロセスと共にご紹介したいと思います。クライアントと真摯に向き合い、知力の限りを尽くして制作に挑む彼の姿から、プロのロゴデザイナーの仕事術を学びましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Lukasz! )


ライオンをモチーフに制作されたハイテクブランドのロゴデザイン

ハイテクブランドのロゴデザイン

ブランド名は「Rexav」。ホームシアターやホームセキュリティ、照明システムやコンピューターネットワークなど、ホームオートメーションシステム全般に渡り設計・販売をしている次世代型ビジネス「スマートホーム」のブランドです。「Rex」はラテン語で「王様」を意味し、「AV」は「オーディオ・ビジュアル」の略です。

ロゴ制作に際し、Lukasz氏は必ずそのブランドについての情報収集やクライアントからのヒアリングを綿密に行ないます。今回の「Rexav」についてヒアリングを通じてどのような情報を得たのかをまとめてみましょう。

 

●ロゴから顧客に伝えたいイメージ

・エンターテイメント性が高く新たな分野に積極的に取り組む質の高い仕事
・堅牢なセキュリティ

●ロゴに求めるイメージ

・ライオンの顔をモチーフとし、安全・正直・フレンドリー・洗練を表現する
・システムの設計・販売を通しインテリジェントで楽しい、文化的な現代生活の提供
・ミニマリズムとシンプルさ

●キーワード

・明るい ・スマート ・信頼 ・熱意 ・活力 ・幸福 ・強さ ・安全 ・信頼

●ターゲット

現代的なライフスタイルをもつ富裕層。また、新たなテクノロジーに関心の高い層。

 

以上の情報を元に、Lukasz氏はロゴのデザインのベースとなる骨子をまとめます。

1. シンプルで抽象的、かつスマートなロゴデザイン。

2. 「Rex」=「百獣の王」。セキュリティ・信用・統制のイメージをもつライオンをデザインモチーフとする。

3. ライオンをモチーフにしたロゴマークは市場に溢れるほど存在している。そこに埋もれないよう、ユニークで突出したデザインである必要がある。

4. ハイテク機器ブランドらしく高いクオリティを感じさせるデザインである必要があり、それは現代的なインテリアデザインと一致するべきである。

5. クライアントの要望である、楽しさとフレンドリーさの表現。

 

この骨子案をもとに、いくつかのライオンのスケッチが制作されました。

ロゴのスケッチとデザインプロセス

ラフなスケッチや簡素な図形から徐々にそれらしきカタチに整えられ、候補案がA~Gの7つ作られました。この候補の中で、クライントの要望やデザイン骨子案と照らし合わせ、要件を満たさないものは次々と外されていきます。結果的に残り、次のラウンドへ進めたのは、A、F、Gの3つに絞られました。

 

ロゴデザイン_コンセプトA

コンセプトA

この3つの案の中でもっとも王道を行くライオンのデザインパターンです。一目で誰もがライオンだとわかり、ライオンのもつ「信頼」や「安全性」「誇り」などのイメージを体現し、シンボルマークだけでも十分機能するよくできたロゴマークです。唯一の懸念事項は、クラシックで保守的であるという点です。

 

ロゴデザイン_コンセプトF

コンセプトF

もっともミニマリズムを追求したロゴデザインです。斬新で抽象的ではありますが、行き過ぎたミニマリズムは時としてその意味を見失ってしまう場合もあります。何をモチーフにしたのかがわからなくなってしまうと伝えるべき意味も失ってしまいます。

 

ロゴデザイン_コンセプトG

コンセプトG

この中でもっとも独創的、かつクライアントからの要件を満たしているデザイン案です。ラインで構築されたライオンは、シンプルでありながら、質の高さや専門性、安全、信頼などのキーワードを網羅し、かつ「先進性」や「現代的」なイメージも持ち合わせています。

 

最終的に決定したのはG案です。クライアントからのオーダーにしっかりと応え、世に溢れる多くのライオンロゴの中にあっても、その存在感を主張できる斬新なデザインはこのブランドの顔として相応しいロゴマークです。また、ロゴマークを決定した後、制作される数々のグラフィック要素をデザインする上で、このロゴマークのインパクトは非常に大きく、強力なツールを生み出せることが、このデザインに決定させた理由の一つでもあります。

完成ロゴ

ロゴを用いたブランディング

オーディオのパッケージデザイン


カシミア製品を提供するネットショップのロゴデザイン

カシミアのネットショップのロゴデザイン

「Asun Asyar」は高級素材、カシミアを扱うネットショップ。店名は「as unique as you are」の頭文字をとった略語でできています。その名の通り、購入者が好きなように製品をカスタマイズすることができるのが魅力で、そこがブランドコンセプトの根幹でもあります。

ロゴの作成にあたり、クライアントから出された要望は「ヤギの正面を向いた頭部」をモチーフにすることでした。それが意味するところは、カシミア製品であることの象徴であると共に「洗練」「構造化」「強さ」「贅沢」などのキーワードとの関連性です。

 

スケッチブックいっぱいに手描きでヤギの図案をいくつも描き、イメージに近いものを探していきます。

膨大なスケッチ

スケッチの中からいくつか候補を絞り、ブラッシュアップしたのち、イメージの確認のためクライアントへ提出されました。

ブランドロゴの提案例

この時点で、Lukasz氏は自らのデザインに行き詰まりを感じ、満足のいく結果を得られないような感覚を覚えていました。そして、その予感は的中します。クライアントからの返事は、「どのデザインにも感銘を受けない」という厳しいものだったのです。

 

幸運の瞬間は休暇の間にやってきました。プロジェクトの間の小休止の期間、Lukasz氏の中に合ったクリエイティブへの障壁は消え、新たな2つの案がひらめいたのです。

ブランドの再提案ロゴデザイン

ブランドの再提案ロゴデザイン2

一つは、スケッチから発展させた独特の雰囲気をもつヤギの顔をモチーフにしたデザイン。賢さと威厳を感じる図柄に仕上がっています。そしてもう一つが、ヤギのシルエットに指紋を重ねてモチーフとしたものです。ショップのコンセプトでもあるユニークさやオリジナリティが上手く表現されており、クライアントも大変気に入ったそうです。

最終決定案

ロゴタイプとの構成やカラーパターンなど諸々の調整が行われ、最終的にロゴマークとして完成を迎えました。紆余曲折ありましたが、クライアントもデザイナーも納得できる結果となるのが、ロゴデザインにおける、ひとまずのハッピーエンディングといえるのではないでしょうか。


写真と旅行をモチーフにしたワークショップのロゴデザイン例

撮影ワークショップのロゴデザイン

「Photo Tours Abroad」は、世界各地で写真撮影のワークショップを行う、撮影を主体とした旅行パッケージ商品を扱う企業です。長年の成長と拡大の過程の中でいくつものロゴマークが考案され消費されてきましたが、そのどれもがその場しのぎのように作られ、アイデンティティとしての機能は持ち合わせていないようでした。そこで、Lukasz氏に新しいロゴデザインを正式に依頼されたのが今回の趣旨です。

 

ロゴデザイン骨子

・長年の経験が培った確かな品質。
・ターゲットは、アートに関心のある洗練された感性をもつ層。
・シンプルかつスマートで品のあるデザイン。
・「写真」と「旅行」を想起させるデザイン。

 

ロゴのスケッチ案

骨子案を元に、いくつものスケッチが描かれました。「写真」をテーマにした図柄やロゴマークは世の中にはごまんとあり、型にはまったデザインをしてしまいがちです。それらの既成概念に捉われないよう新鮮なアイディアを出すためには、このスケッチの作業はなくてはならないものなのです。

 

ロゴのデータ化

スケッチの中から有望な候補を絞り、ベクター化します。5つの候補のうち、左から3つまではオーソドックスなデザインであり、誰もがわかりやすいという観点から合理的だと判断され候補に残りました。しかしながら、今回求められているのは、より洗練されたスマートなロゴデザイン。最終的な候補は最後の2つに絞られました。

 

ロゴマークの構造

最終選考の段階で、2点のデザインはより精緻化され十分に比較検討されました。上段のデザインは、カメラのレンズと地球をモチーフにし、一つの美しい記号を形作っています。下段のデザインは、カメラのフレームの一部に飛行機を重ね合わせたデザインで、ロゴタイプを容易に組み込めることが利点です。

どちらのデザインも素晴らしく、コンセプトに呼応するロゴデザインですが、最終的にはクライアントの判断で、誰からもわかりやすいというのを決め手に下段のフレーム案が選ばれました。

ワークショップのロゴデザインの決定案

微調整が行われロゴマークが完成しました。写真と旅行をシームレスにつなぐこのロゴマークは、全体の調和が美しいバランスでとられた、ファッション性の高いハイセンスなブランドの顔となったのです。


まとめ

いかがでしたでしょうか。3つの代表的なプロジェクトをご紹介いたしましたが、どの案件もしっかりとしたヒアリングと考察の上に、惜しげもないアイディアの積み重ねでそのブランドに見合う答えを見つけ出していましたね。

ロゴデザインは時として最初のひらめきが決定打になる場合もあります。しかし、それが本当に正解かどうかは他のアイディアと比較検討してみないことには確証をもつことはできません。そういう意味でも、ロゴマークを制作する上で基本的な段階を踏み、多くの検証を経てデザインしていくという作業が重要と言えそうです。

design : Lukasz Ruszel ( Poland )

 

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