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ウォッカトニック

世界的ウォッカブランドのアブソルートがボトルデザインをリニューアル

ウォッカの世界的ブランド「アブソルート(Absolut)」のボトルデザインがリニューアルされることが、2021年9月に公表されました。アブソルートウォッカが1979年に米国市場に導入されて以降、もっとも大きなデザイン変更とされています。

アブソルートは、スウェーデンで作られ、世界中で飲まれているウォッカです。米国で1980年から25年間展開された広告シリーズは、広告やグラフィックデザインに関わりのあるひとであれば、一度は目にしたことがある伝説的なものです。知的なひねりを効かせたキャッチコピーと、「プロダクト主義」とでも言えるミニマルなビジュアル表現は、広く影響を及ぼしました。

唯一無二のボトルデザインは、多くのアーティストにもインスピレーションを与えました。ラベル類を一切貼らず、ブランド名などを直接印刷した透明なボトルは、アブソルートウォッカの味と品質を想像させます。今回のリニューアルで何が変わったのかを見てみましょう。

 

先代ボトルデザインの特徴

アブソルートのボトルデザイン

Gudellaphoto – stock.adobe.com

ウォッカは無色透明の蒸留酒で、スピリッツに分類されます。そのイメージにマッチした透明のガラス瓶をアブソルートは一貫して使ってきました。

アブソルートのボトルデザインの刻印

Q77photo – stock.adobe.com

ボトルの胴はくびれのないストレートな形状です。肩は丸く、首は短め。肩には「ウォッカ王」ラース・オルソン・スミス(Lars Olsson Smith)のメダリオンの刻印があります。

アブソルートのボトルの大きな特徴のひとつは、紙などに印刷されたラベルを使っていないということです。各デザイン要素はボトルに直接印刷されています。テキストとレイアウトは、まるで広告デザインのキャッチと本文コピーのようです。

カリグラフィーのデザイン

Q77photo – stock.adobe.com

メダリオンの下には、書体フーツラ(Futura)をベースとしたカスタム書体で、ロゴが大きくレイアウトされています。ロゴの下に書かれているのは、アブソルートのウォッカ造りの哲学である「One Source(ひとつの源)」の説明が、美しいスウェーデンスタイルのスクリプト文字でつづられています。これはイタリア出身のカリグラファー、Luca Barcellonaの手によるものです。ボトルの下部には、アルコール度数、スウェーデン製などの情報もあります。

先代ボトルは2015年に登場

先代ボトルのデザインは、2015年にリニューアルされたものです。ブランドロゴ、メダリオン、スクリプト書体のテキストの内容など表面のデザイン要素が変更されました。ブランドロゴが2014年にリニューアルされたので、それにともなうものです。ボトルの軽量化もおこなわれました。

ボトル自体の形状は、1979年に米国市場に導入された初代のボトルと比べても、ほとんど変わっていません。見てわかる違いは、初代ボトルでは、メダリオン部分がシーリングワックス(封蝋)のロウが溶けたようなあしらいになっていることくらいです。

 

2021年のデザインリニューアルで変わった点




今回のリニューアルでは、どこが変わったのでしょうか。

新旧ボトルデザイン

・店頭に並ぶ新旧ボトルデザイン / Joni – stock.adobe.com

まず気づくのは、ロゴの下がすっきりしていることです。「One Source」の説明の代わりに、先代とは異なるスクリプト書体で「Swedish Vodka(スウェーデン製ウォッカ)」とだけ記されています。また、ロゴもわずかながら大きくなっています。

上部メダリオンのデザインも変更されました。スミスのイラストと文字以外の要素が取り去られた、ミニマルなデザインです。スミスの顔のまわりの文字も新しくなっています。先代のメダリオンにあった「Swedish Vodka」がロゴの下に移動したので、代わりにL.O. スミス(L.O. Smith)の名前が入れられました。

そして、小さいようで大きな違いは、紙のラベルが貼られていることです。アブソルートウォッカとしては、1979年の登場以来はじめてのことです。アルコール度数や原材料、製造場所などが印刷された細長いシールがボトル下部にあります。

アブソルートはこれまでも、ウォッカとボトルの透明性を生かして、ボトル背面を有効活用してきました。新しいボトルデザインでは、製造所のイラストとテキストが、ボトル背面に印刷されています。先代ボトルではテキストだけで説明していた「One Source」をアピールするためのデザインです。これは、いまでもアブソルートが、L.O.スミスの生まれ故郷であるスウェーデン南部のオフス村で造られているということを伝えています。

ボトル自体に加えられた変更




今回のリニューアルでは、ボトルそのものにも変更が加えられています。

ボトルの下部に、「Country of Sweden」というエンボス文字が入れられました。この文字は、歴代のボトルデザインでも、どこかに表記されていましたが、ボトル自体にエンボス加工されたのは今回がはじめてです。

製造工程で、ボトル同士が触れ合うことがありますが、これによって「Country of Sweden」のエンボス文字が損なわれることがないように、文字部分はわずかにくぼみをつけられています。

また、メダリオン部分もシンプルな形状になり、シーリングスタンプの雰囲気はなくなりました。

ところで、「Country of Sweden」という表記は1979年から使われてきました。スウェーデンの正式な国名の英語表記は「Kingdom of Sweden」です。マーケティングの観点から「Kingdom」は米国市場にふさわしくないという判断でもあったのでしょうか。あるいは、日本の硬貨に「日本国」とあるように、国名であることを明示するための表現でしょうか。

 

デザインリニューアルの背景

ウォッカトニック

ウォッカはもともと、蒸留を重ねて不純物をとりのぞいた純度の高いものが良いとされています。欧米では、ウォッカに限らず、スピリッツ類の原材料である水や穀物への関心が高く、有機栽培にこだわったオーガニックウォッカ、オーガニックジンなども人気です。

EU(欧州連合)では、2018年にスピリッツ類に関する規制が新しくなり、記載する情報やラベリングについて明確にすることが要求されています。また、農林水産物・食品の名称を知的財産として保護する「地理的表示(GI)」は、欧州が世界に先駆けて導入しました。

こういったトレーサビリティにも通じる、素性を明らかにすることへの消費者の関心はますます高まっています。アブソルートは従来から「透明性」をブランドの重要な要素としてきました。「Swedish Vodka」をロゴの下に印象的に配置したことや、背面の蒸留製造所イラストなど、素性に力点をおいた今回のリニューアルは、このような流れを受けてのことでしょう。

ボトル形状のルーツは薬びん

アブソルートウォッカのボトルは、装飾性を拒否したかのようなシンプルなデザインです。ボトル表面の印刷もそうですし、ボトル自体もくびれや高級な酒にあるカットグラスのような処理もありません。

1879年にL.O.スミスが「連続式蒸留」という新しい技術を使って生み出した純度の高いウォッカは、人気を博し成功を収めます。このウォッカは、のちに「アブソルート・レント・ブレンヴィン(Absolut Rent Brännvin)」という名前づけられます。これは「完全に純粋なウォッカ」という意味です。

スウェーデンでは1970年代になると、ワイン人気などの影響もあってスピリッツ類の売り上げが低迷します。そこで、国営の酒造メーカーS&V社は米国市場に活路を求めます。当時の米国では、ウォッカは高級品として受け入れられていたからです。

スミスのウォッカ誕生から100年後の1979年に、アブソルートは米国市場に進出します。しかし、市場にはさまざまな競合商品がひしめいていました。そこでアブソルートに依頼された広告代理店は、金色や銀色をつかった豪華な装飾のライバルたちとはまったく異なるボトルでアブソルートを目立たせるというコンセプトを進めます。

あるとき、広告代理店のひとりがストックホルムの骨董品屋で古い薬びんを見つけます。16~17世紀にウォッカが薬として薬局で売られていたこともあり、その薬びんをボトルデザインのモデルとすることとなりました。引き受けてくれるガラスびんメーカー探しに苦労しながら、試作を繰り返し、ついに唯一無二のボトルが生まれます。




2021年のリニューアルでは、紙のラベルを貼ることになりました。もしかすると、アブソルートにとっては不本意だったかもしれません。しかし、あえて無機質な長方形の白いラベルにすることで、薬びんのような雰囲気を醸そうとしたのではないでしょうか。意図しなかった法的要請を逆手にとって、ボトルが生まれた原点に立ち返ったアイデアなのではないかと想像します。

アブソルートの透明で控えめともいえるボトルデザインは、酒屋やバーの棚でひときわ目立ちました。マンハッタンのおしゃれなカクテルバーで話題となり、ニューヨーカーたちがアブソルートのロックを求めます。アーティストたちを巻き込んだ伝説的キャンペーンの力もあり、1985年、ついに輸入ウォッカとして米国での売上ナンバーワンを獲得しました。

アブソルートのすばらしい広告キャンペーについては、また別の機会に紹介したいと思います。


【参考資料】
Absolut Vodka unveils its biggest design update since launch in 1979 (https://www.absolut.com/ie/news/articles/new-bottle-design/)
Absolut Vodka unveils biggest design update since 1979 (https://www.packagingnews.co.uk/design/new-packs/absolut-vodka-unveils-biggest-design-update-since-1979-07-09-2021)
These Are the Best Absolut Vodka Print Ads of All Time (https://www.businessinsider.com/the-21-best-absolut-ads-2013-12#absolut-perfection-1980-1)

※公式WEBサイト情報もあわせてご確認ください。



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