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米キャンベル・スープが50年ぶりに缶ラベルのデザインをリニューアル

米キャンベル・スープ社が、スープ缶のラベルデザインを50年ぶりにリニューアルすると2021年7月に公表しました。キャンベル・スープと聞けば、アンディ・ウォーホルの作品を思い浮かべるひとが多いのではないでしょうか。赤と白のツートーンが印象的なラベルデザインは、単なる商品パッケージを超えて、コカ・コーラのボトルなどと同様に、米国の消費生活や文化のシンボルとなっています。

 

赤白のツートーンはそのままにモダンにデザインを手直し

新しいラベルでも、赤白のツートーンデザインはこれまでと同じです。赤地に白ヌキのブランド名、真ん中に置かれたメダル、内容物、「Soup」の表記など、構成要素や全体的なレイアウトに大きな変更はありません。はっきりわかるのは、スープの原材料の写真が追加されていることぐらいでしょう。パッと見ただけで違いがわかる消費者は少ないかもしれません。

Campbell Soup

旧キャンベルスープのデザイン  dbvirago – stock.adobe.com

しかし、先代のラベルとリニューアルされたラベルを並べて比べると、ほとんど全ての要素が手直しされていることがわかります。また、ブランド名、内容物、「Soup」の各要素のバランスが再調整されていて、先代のラベルよりも優先順位が明確です。とはいえ、十分に計算されたホワイトスペースによって、視認性も向上し、すっきりとしたレイアウトになっています。全体に、洗練されたモダンな印象です。

ブランドのワードマークも刷新

(※右が新しいロゴデザイン)

ブランド名「Campbell’s」には、黒い影がつけられていましたが、無くなりました。また、先頭の「C」以外の文字がつながっていたものが、すべて独立した文字になっています。また、「C」の書き出しのひげが左右に別れています。おそらく、新しい書体に変更したあとも、歴代のワードマークの雰囲気を残しておこうという工夫なのでしょう。

赤白のツートーンのスープ缶ラベルが初めて登場した1898年から、ワードマークには筆記体のレタリングが採用されてきました。これは、キャンベル・スープ社の創設者ジョセフ・キャンベル(Joseph Campbell)の署名を元にしているといわれています。手書きの署名のような書体をブランドにした理由は、自家製スープのような雰囲気を出すことで主婦層にアピールしたいという意図があったようです。

 

可能なかぎり装飾的要素を取り去ったデザイン

ラベルの下部の「Soup」は、スラブフォント書体のアウトライン文字でしたが、シンプルなサンセリフ書体になりました。先代のラベルでは、反時計回りに回転したように見える「O」が特徴的ですが、これは新しい書体でも再現されています。「Tomato」「Chicken Noodle」など内容物の表示に使われている書体も変更されました。

また、「Soup」の文字をはさむように並べられていたユリの紋章(fleur-de-lis)は、左右ひとつずつに減らされました。この紋章をよく見るとワードマークの「C」が隠れていることがわかります。

今回のリニューアルを手がけたクリエイティブスタジオ、ターナー・ダックワーズ(Turner Duckworth)は、当初この紋章をなくすことも検討したようです。同スタジオのデザインディレクター、Drew Stocker氏は次のように述べています。

「一般的なマークであり、キャンベルのストーリーとはこれといったつながりはありません。しかし、その一方で、それがなくなると寂しく感じる、ラベル体験の重要な要素のひとつなのです」

Stocker氏は、ワードマークの「C」の文字を紋章に入れ込んだことを「見つけた喜びを感じる瞬間」であるとしています。

先代のラベルデザインもかなりシンプルなものですが、リニューアルバージョンでは、さらに余分な装飾が取り去られています。一方で、具象的に表現されているのが、1900年パリ万国博覧会で受賞した銅メダルと新たに追加された内容物の写真です。メダルはより立体的な表現になりました。リニューアルされたラベルでは、ミニマルな要素とリアルなイメージが互いを際立たせています。

 

ポップアートの象徴:アンディ・ウォーホルのキャンベル・スープ缶

アンディ・ウォーホルがキャンベル・スープ缶を描いた最初の作品は、1962年にロサンゼルスのギャラリーで披露されました。これは、当時発売されていた32種類のスープ缶が、ひとつずつ小ぶりのキャンバスに表現された32点の作品でした。

手描きのイラストをシルクスクリーンで印刷したスープ缶の絵は、製品のラベルデザインと同様にすべて均一の顔をしています。異なっているのは、クラムチャウダーやチキンヌードル、ミネストローネといったスープの種類の表示だけです。ずらりと規則正しく並べられた32枚のキャンバスのながめは、さながらスーパーマーケットの陳列棚のようでした。

この作品群はアート界に議論を巻き起こしました。大量生産されたスープ缶を描いただけの絵はアート作品と言えるのか。ウォーホルのスープ缶を展示しているギャラリーの近所にある別のギャラリーでは、キャンベル・スープ缶の実物を山積みして、こちらの方がお安く買えます、と否定的な姿勢を示すというようなこともありました。

ところで日本では、アンディ・ウォーホルのキャンベル・スープの作品のことを知っている人と、実際にスープ缶を食べたことのある人では、どちらが多いのでしょうね。

キャンベルとアートの21世紀的関係

アンディ・ウォーホルが描いたことで、キャンベル・スープ缶は、単なる商品を超えるものとなりました。キャンベル・スープ社も、「将来、誰でも15分は世界的な有名人になれるだろう」というアンディ・ウォーホルの有名な発言を印刷した、ポップアート風ラベルの限定商品を発売したりしています。

今回のラベルリニューアルにあたりキャンベル・スープ社は、2021年ならではのアートとのつながり方を示しました。ニューヨーク生まれのストリート系アーティスト、ソフィア・チャン(Sophia Chang)氏が、キャンベル・スープ社公認のオリジナルのイラストレーションを制作。

この「AmeriCANa: Campbell’s x Sophia Chang」と題した作品は、デジタルアートですが、NFT(Non-Fungible Token = 非代替性トークン)という技術によって、100個のデータにだけ、本物であるというデジタル証明書が付けられます。100部限定の版画にエディションナンバーが付けられるのに似ています。

そして、この作品をライブコマースのプラットフォームのひとつ「NTWRK」で販売しました。ライブコマースは、ライブ配信動画を活用したオンライン販売形式です。数年前から中国で普及している実情が日本でも紹介されましたが、ロックダウンや自粛を強いられた昨年から各国でも利用が増えてきています。米国生まれのNTWRKは若い世代向けのプラットフォームで、特定の日時にライブ配信をおこないながらブランド限定品を販売するというものです。

ソフィア・チャン氏のイラストレーションは、アニメーション版も制作されました。これは、世界最大のNFT市場「OpenSea」で、1点のみ出品されています。

ソフィア・チャン氏のNFTによる売り上げは、フィードバンクNGO「フィーディング・アメリカ(Feeding America)」に寄付されるということです。

 

リニューアルされるのは主力スープ製品のラベル

キャンベルブランドから発売されている商品の種類はとても多く、缶製品だけでも公式サイトでは150種以上の製品が紹介されています。その中で、今回のリニューアルの対象となっているのは、ラベル下部に「Soup」と記載されている、トマトスープ、クリームチキン、クリームマッシュルーム、チキンヌードルなどです。

キャンベルジャパン社からは、日本の消費者の嗜好に合わせたオリジナル商品が発売されています。それとは別に、アメリカ市場向け製品が数種、英語ラベルのままで発売されています。日本市場向けのラベルデザインがどうなるのかは不明ですが、日本で発売されている英語ラベル製品にはトマトスープやチキンヌードルなどが含まれてので、近いうちに新しいラベルデザインを直接見て確かめることができるでしょう。


【参考資料】
Campbell’s | Turner Duckworth (https://turnerduckworth.com/campbells)
Turner Duckworth “thoughtfully contemporises” Campbell’s Soup | Design Week (https://www.designweek.co.uk/issues/9-15-august-2021/turner-duckworth-campbells-soup/)
Campbell’s Unveils New Soup Cans Alongside NFT Charity Auction | Dieline – Design, Branding & Packaging Inspiration (https://thedieline.com/blog/2021/7/27/campbells-unveils-new-soup-cans-alongside-nft-charity-auction)
Campbell History – Campbell Soup Company (https://www.campbellsoupcompany.com/about-us/our-story/campbell-history/)

※公式WEBサイト情報もあわせてご確認ください。



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