エッチングの仕組み・特徴について:印刷史のなるほど雑学04

エッチングについて

エッチングとは?

エッチングは銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。

凹版印刷の仕組み

銅版画にはいくつかの種類がありますが、その代表的な技法のひとつがエッチングです。現在では電子回路のプリント基板や金属加工、半導体の製造などにも利用されています。

 

金属板を腐蝕させて版をつくる蝕刻法





金属板に直接イメージを彫刻するエングレービング(engraving)などとは異なり、エッチング(etching)は金属の表面に塗ったグラウンドまたはグラウンド(ground)と呼ばれる防蝕剤の層を削ってイメージを描きます。削った部分を腐蝕させることで彫刻するのでエッチングは蝕刻法に分類されます。エングレービングなどは直刻法です。間接法と直接法という分け方もあります。

エッチングで主に使われるのは銅板です。銅板の表面をグラウンドでおおい、それを先のとがったニードルでひっかくように削って描画します。ニードルに削られた箇所は胴が露出します。描き終わった銅板を腐蝕液(第二塩化鉄や硝酸などの水溶液)に浸すと、露出した部分だけが腐蝕して彫られます。銅板を洗って彫られた箇所にインクを詰め、紙を重ねて圧をかけるとイメージが転写されるという仕組みです。

 

エッチングは金属工芸品の装飾技術に由来

中世ヨーロッパでは、ヨロイや盾などの武具や金属の食器をエングレービングによって装飾していました。さらに、金細工職人たちは少なくとも1400年までに装飾技法としてエッチングを開発しました。

ダニエル・ホプファのエッチング

Daniel Hopfer, Three German Soldiers Armed with Halberds, c. 1510.

この技術を初めて版画に応用したと考えられているのはダニエル・ホプファ(Daniel Hopfer)です。ホプファは15世紀の末にはエッチングで版画作品を制作したとされています。画家アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer)は1515年以降エッチング作品を数点残しましたが、ホプファからエッチング技術を学んだと考えられています。

 

エッチング独特の表現の幅

グラウンドをニードルで削る作業には特別な彫刻の技術は必要ありません。ペン画と同じように自由な線を描けます。また、腐蝕時間の長さで線の強弱をコントロールすることが可能です。腐蝕時間が長ければ溝が深くなり、線が太くなります。強い線だけ先に描いて腐食液で少しだけ腐蝕させたあと、ほかの部分を描き足すことで腐蝕時間に差をつけられます。

もうひとつは、すべてを描いて腐蝕液に漬けたのちに、細い線にしたい箇所に「黒ニス」または「止めニス」と呼ばれる防蝕剤を塗り、もう一度腐蝕液につけることでほかの部分を太くする方法です。またエッチングで作成した版面に対して直接エングレービングで描き足されることもあります。こういったテクニックによって微妙なグラデーションやニュアンスを表現することができます。

 

光の画家レンブラントのエッチング





17世紀にエッチングの作品を数多く手がけたのがレンブラント・ファン・レイン(Rembrandt van Rijn)です。

レンブラントの作品

The Three Trees, 1643, etching

レンブラントの作品2

The Windmill, 1641, etching

エッチングとドライポイントやエングレービングを組み合わせて自在な表現をおこない、版画芸術のひとつとして高めました。レンブラントが制作したエッチングは300点以上にものぼります。

彫刻の技術に制約されることなく表現を追求できる自由度は芸術家に好まれ、レンブランド以降も多くの作品が生み出されました。

代表的な芸術家には、ジャック・カロ(Jacques Callot)、アドリアーン・ファン・オスターデ(Adriaen van Ostade)、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ(Giovanni Battista Piranesi)などがいます。フランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco de Goya)は『戦争の惨禍』というエッチングなどを組み合わせた版画集を残しました。


【参考資料】
Etching – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Etching)
Etching | printing | Britannica(https://www.britannica.com/topic/etching-printing)
Daniel Hopfer – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Daniel_Hopfer)
武蔵野美術大学 造形ファイル、エッチング – えっちんぐ(http://zokeifile.musabi.ac.jp/エッチング/)
女子美術大学 版画研究室、銅版画、エッチング(http://www.joshibi.net/hanga/curriculum/intaglio/etching.html)
版画HANGA百科事典 銅版画の技法いろいろ(https://n-hanga.com/douhan/hanga/etching01.html)



印刷(印刷機)の歴史

木版印刷 200年〜

文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。

活版印刷 1040年〜

ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。

プレス印刷 1440年〜

活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。

エッチング 1515年〜

「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。

メゾチント 1642年〜

銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。

アクアチント 1772年〜

「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。

リトグラフ 1796年〜

「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。

クロモリトグラフ 1837年〜

「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。

輪転印刷 1843年〜

「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。

ヘクトグラフ 1860年〜

「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。

オフセット印刷 1875年〜

「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。

インクジェット印刷 1950年〜

「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。

レーザー印刷 1969年〜

「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング) で重要な役割をはたしました。


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