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『音楽』と『グラフィックデザイン』の関係性について

『音楽』と『グラフィックデザイン』の関係性について

『音楽』と『グラフィックデザイン』の関係性について

みなさんは、『音楽』と『グラフィック・デザイン』の関係性について考えてみたことがありますか?

人間の感覚機能である五感のひとつ「聴覚」を使って作りあげられる作品が『音楽』、また「視覚」により伝えたいことを表現する『グラフィックデザイン』ですね。いつの時代にも、この音楽とグラフィック・デザインは、数々の媒体を通して密接な関わりを築いてきました。

コンサートのポスターデザイン、チラシデザインやカタログ、また、レコードのジャケットからはじまり、現在ではCDやDVDのジャケットデザインやパッケージデザインなど、数々の音楽シーンにグラフィック・デザインは欠かせないものであると言えます。

音楽のジャンルは、今や数えきれないほど多岐に渡り、時代と共に、その数も増え続けています。それぞれ独自な「聴覚的」特徴をもつ音楽ジャンルにぴったりと合う「視覚的」なグラフィックデザインとはどんなものなのか、今日は、何点かの音楽ジャンルを選択し、そのルーツや時代背景もたどりながら、考察してみましょう。

 

1)ブルース、ゴスペル、ソウル、そしてジャズへ

ジャズとデザイン

15世紀に誕生したルネサンス音楽、17世紀のバロック音楽、そして18、19世紀に花開いたクラシック(古典)音楽の後に、今の音楽シーンに関係のあるポピュラー(大衆)音楽の幕開けともいえるのがジャズです。

19世紀の後半,奴隷身分から解放はされてはいましたが、人種差別や黒人排斥の社会機構の中で最底辺の生活を強いられていたアメリカ合衆国の黒人たちは、故郷アフリカ伝来の強い精神性を持つ教会音楽ゴスペル(gospel)や、即興的なメロディのブルース(blues)、またソウル(soul)ミュージックを誕生させます。

強い人種性・民族性を残すこれらの音楽は,やがて白人音楽の影響を受けて洗練・発展し、1900年頃に、アメリカ南部のニューオリンズで器楽演奏を主体としたジャズ(jazz)として発展していきます。

このブルース、ソウル・ミュージックのレコード(またはCD)ジャケットデザインには、ミュージシャン本人の強い個性を強調した写真が使われていることが多いのが特徴です。

ブルースの巨匠リトル・ウオルター(Little Walter, 1930−1968)の1957年に発売されたベスト盤レコード『The Best of Little Walter』のジャケットは、ハーモニカを吹く彼の印象深い写真を全面に配置した、力強いモノクロームなデザインで構成されています。

また、『ソウル・ミュージックの神様』と呼ばれたレイ・チャールズ(Ray Charles Robinson、1930−2004)の各名盤ジャケットを眺めてみても、演奏している彼自身の写真をそのまま使用したり、コラージュさせて作られているものが多数あります。

 

さて、今では時代も国境も超えたジャズ音楽ですが、ジャズというとどのような視覚的なイメージをお持ちでしょうか?一般的なジャズのコンサートのポスターやチラシを思い浮かべると、インパクトの強いサンセリフ・タイプのフォントを使用、色のイメージは、モノクロームまたは青色系で構成されたものが多いような気がします。

ジャズの歴史そのものともいえるブルーノート・レコード社のレコードレーベルも、モノクロームの写真とすっきりしたタイポグラフィーが使われているタイプのものが多いのが特徴です。

多くのブルーノート・レーベルのジャケットデザインは、アメリカ人グラフィックデザイナー、リード・マイルス(1927−1993)によって生み出されました。その作品数は400以上とも言われています。

somethin_else

マイルスが手がけた、キャノンボール・アダレイ(1928−1975)が1958年に発表した名盤『Somethin’ Else』のジャケットは人々の目を惹き付ける特別なグラフィックデザインです。色は黒、白、ブルー、薄緑色で構成、Franklin Gothic Extra Condensedフォントの文字が巧みに配列された秀逸な作品です。

もうひとつマイルスの作品で見逃せないのが、1962年に発表されたアメリカのジャズ・トランペット奏者、フレディ・ハバード(1938−2008)のアルバム、『Hub-Tones』です。当時、ブルーノートはフルカラーの予算がなかったため2色しか使えない、という条件の下での制作でしたが、マイルスの類い稀な才能より、この歴史的な名盤が生まれました。斬新で洗練されたタイポグラフィーと、ミュージシャンや人のパーツを大胆にトリミングした写真でデザインされた彼の作品は、その後のジャケットデザインに影響を与えました。

 

2)ロックから、ヘヴィメタル、パンクロック、グランジへの展開

カントリーミュージックとデザイン

一方で、白人開拓者は、アメリカ西部などを中心として民謡から発展させたカントリー・ミュージックを生みました。このカントリー・ミュージックは1920−30年代にはアメリカ全土で愛好されるようになります。

1950年代中期,この白人のカントリー・ミュージックとリズム・アンド・ブルースが相互に影響しあう、強力なリズムを持つダンス音楽、ロックンロール( ロック・アンド・ロール 『rock』も『roll』も、ともに「揺する」という意味です)が誕生しました。

ロックミュージック

1960年以降、イギリスやアメリカ合衆国で幅広く多様な様式へ展開した音楽ジャンルがこのロックです。このロックから、大音量、パワー、スピードを強調する、ヘヴィメタル(heavy metal)が誕生、また1970年代後半には、政治的、社会的批判を歌った歌詞を特徴とする、エネルギーに満ちた形をとる音楽、パンクロック(punk rock)へと発展していきます。

 

ビートルズ

Valeri Potapova / Shutterstock.com

ロック音楽には数々の有名ミュージシャンが存在しますが、世界中の風俗やファッション、若者文化に大きな影響を与えたのはビートルズ(Beatles)でしょう。ビートルズが残した数々のレコード・ジャケットは、デザイン的にとても興味深いものばかりです。1968年発表の『The Beatles』は、通称「ホワイト・アルバム」の名で有名ですが、当時サイケデリック調の色彩豊かな派手なデザインのジャケットが多かった中、初盤はタイトルを浮き彫りにしたエンボス加工を施した、真っ白なジャケットという斬新なものでした。各盤に通し番号が振られるなど、とても画期的な試みでした。これは「ポップ・アートの父」と名高いイギリスの画家、リチャード・ハミルトン(1922−2011)によるデザインです。

 

ABBEY ROAD ジャケットイメージ

neftali / Shutterstock.com

同じくビートルズの12作目、1969年に発表された解散前のラストアルバム、『ABBEY ROAD』のジャケットは、レコード・ジャケット史上最も有名なものの一つです。ロンドンのEMIレコードスタジオ前の横断歩道を、ビートルズのメンバー4人が歩くシーンのこのジャケットは、文化的、経済的効果をもたらしたことでも知られています。

この横断歩道は人気の観光スポットとなり、イギリス政府によって2010年に文化的・歴史的遺産として指定されたり、また他のミュージシャンやアーティストがこの横断歩道を歩くシーンを模倣したパロディ・ジャケットを作ったりと、広い分野で大きな影響をもたらしました。

 

ウォーホルのジャケットデザイン

bepsy / Shutterstock.com

ロック音楽とデザイン、という関係性に非常にマッチしたものが、1964年に結成されたアメリカのロックバンド、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド (The Velvet Underground)のファースト・アルバムのジャケットです。

ポップ・アートの巨匠、アンディ・ウォーホル(1928−1987)は、デビュー前からもザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの演奏を大変に気に入り、ウォーホルのプロデュースの下でのデビューアルバムの制作が決定します。

僅か4日間、予算は3000ドル未満という条件で制作されたウォーホル・デザインのこの通称『バナナ・アルバム』のジャケットですが、バナナの絵の端には「Peel Slowly and See(ゆっくりはがして、見ろ)」と書かれていて、初盤では貼ってあるバナナのステッカーをはがすとバナナの果肉が現れる、というものでした。当初、アルバム自体はあまり売れませんでしたが、後に高い評価を受けた作品です。

同じくウォーホルの作品として有名なのは、ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の1971年にリリースされたアルバム『Sticky Fingers』です。

ジャケットには本物のジッパーが取り付けられ、それを開くとブリーフが印刷されたカードボードが出てくる、という非常に凝ったものでした。2003年にこの作品は、TVネットワークVH1より、最も偉大なアルバムジャケットに選出されます。

 

ロック音楽にルーツを持つヘヴィメタルはどんなデザインをつくりあげてきたのでしょうか?

ヘビーメタルとデザイン

1968年に結成されたブラック・サバス(Black Sabbath)から2000年に結成されたマストドンなどのジャケットのデザインは、暗黒な宗教色の濃いイメージや空想生物をモチーフにしたものが多いが特徴です。

また、1975年に結成され世界で最も成功させているバンドのひとつアイアン・メイデン(Iron Maiden)は、エディ・ザ・ヘッド(Eddie the Head)、通称「エディ」と呼ばれるゾンビのキャラクターを、アルバムやシングル盤のジャケットにデビュー時から常に登場させています。アイアン・メイデンのアートワークを手がけるイギリスのイラストレーター、デリク・リッグス(1958− )によってデザインされました。

アイアンメイデンのジャケットデザイン

dean bertoncelj / Shutterstock.com ・アイアンメイデンのジャケットデザイン

イラストを使ったりコラージュを施したり、といろいろな手法が取り入れられているヘヴィメタルのジャケットデザインですが、それぞれの時代のアートテクノロジーに反映していることにも気づかされます。

ここで、1980年代のヘヴィメタルブーム終了後に新しいロックを形成し、それまでの音楽シーンやミュージシャン達に大きな影響を与えた一枚である『Metallica』をあげましょう。通称「ブラック・アルバム」と呼ばれるこのアルバムは、1981年にアメリカ、ロサンジェルスで結成されたバンド、メタリカ(Metallica)がリリースした5作目のアルバムです。

ジャケットは黒一色で、彼らの必要最低限の音楽をこれ以上にない黒で表現したもの、とされています。アメリカ海兵隊の旗で知られるガズデン旗のとぐろを巻いた蛇を採用。アメリカのデザイナー、ドン・ブラウティガム(1946−2008)の作品です。

 

ヘヴィメタル同様、ロック音楽のルーツを引き継いで1970年代に誕生したパンクロックは、その後グランジ(grunge)・ブームにも発展していきます。パンクロックの影響は音楽分野に留まらず、この音楽精神を強く感じさせる『パンク・ファッション』の例にあげられるように、風俗、文化面においても幅広く認識されるようになりました。

パンクとデザイン

パンクロックといえば、セックス・ピストルズ(Sex Pistols)の名盤、『勝手にしやがれ!』(Never mind the Bollocks Here’s the Sex Pistols)があげられます。

勝手にしやがれ ジャケットデザイン

dimitris_k / Shutterstock.com

この視覚的に『パンク』精神を要約したジャケットをつくりあげたのは、イギリス人グラフィックデザイナー、ジェイミー・リード(1947− )。彼はセックス・ピストルズのデザインを手がけ、いわゆるパンクというジャンルのデザイン・テンプレートを作った第一人者です。

4種類のバラバラなフォントを使用、カラーは黄色、ピンク、黒の三色が使われているのに注目です。シンプルながらも脅迫的な文字並びと、目に惹く色使いで構成されたこの作品は、強烈な印象を残しました。

 

グランジミュージック

1990年代にアメリカ、シアトルを中心に、ニルヴァーナ(Nirvana)やパール・ジャム(Pearl Jam)などのバンドを通してグランジ(grunge)音楽が生まれました。「グランジ」という名称は、「汚れた」、「薄汚い」という意味の形容詞 「grunge」からきています。

グランジファッション

このグランジ音楽から派生して、ニルヴァーナの服装をストリート化した、『グランジ・ファッション』が生まれました。デザイン界においても同様にこの音楽から由来を受け、「grunge」な鈍った、薄暗い色を多用し、リアリティを突き詰めたデザイン『グランジ・デザイン』が登場し、いろいろなシーンでのポスターやチラシに活用されていきます。焦点を外した写真を使い、手書き文字や不規則なフォントを使った作品が多いのが特徴です。

 

3)ディスコ、ハウス、ヒップ・ホップ、さらにテクノ音楽へ

クラブミュージックとデザイン

ここで、音楽史上で別の発祥をもつディスコ音楽とデザインの関わりについてみてみましょう。ディスコのもともと起源は第二次世界大戦に溯ります。戦争の激化により、生演奏が不可能となったフランスのナイトクラブで、演奏の代わりにレコードをかけたのがディスコ音楽の発祥と言われています。

この「ディスコ」という言葉もフランス語の「discothèque ( レコード置き場)」という言葉の短縮形です。生演奏の代わりに、客の好みに合わせてどんな曲を何曲でも再生できる、というメリットが大衆に受け、浸透していきました。

フランスで発祥したこのディスコは、戦後アメリカにまで飛び火し、1960年代に大ブレークを起こします。以後、ハウス(house music)、ヒップ・ポップ(Hip Hop)など、と多くのダンス・ミュージックのジャンルが形成されます。

 

ヒップ・ポップ・ミュージックはラップ(rap)・ミュージックとも呼ばれ、リズミカルな音楽のジャンルの一つです。

ヒップホップとデザイン

1970年初頭に、アメリカ、ニューヨークのブロンクス区で、アフリカ系アメリカ人やヒスパニックのコミュニティから生まれました。ヒップ・ホップ発祥の地であるこのブロンクス区は、貧困街であり、お金の無いアフリカ系アメリカ人が、気軽に楽しむための公園で開いたパーティーが起源とされます。

ヒップ・ポップ界のカリスマとも言われる、アフリカ・バンバータ(Afrika Bambaataa、1957− )は、「アフロ・アメリカンが、文化としての音楽、ファッション、アートを取り入れ、新しいスタイルを生み出すこと」を提唱、黒人の創造性文化を総称して『ヒップ・ホップ(Hip Hop)』と名付けられました。

ナイフではなくマイクを

ヒップ・ホップの四大要素は『ラップ(MC)』『DJ』『ブレイク・ダンス』『グラフィティ』にあげられます。これは、グループ間の抗争を無血に終わらせるために、銃や暴力の代わりにブレイク・ダンスやラップの優劣が争われたり、縄張りの主張や情報交換の目的に、一部のグラフィティを用いられたため、と言われています。

バンクシーの作品

 chrisdorney / Shutterstock.com ・バンクシーのストリートアート

ジャン・ミシェル・バスキア(Jean Michel Basquiat、1960−1988)やバンクシー(Banksy)などのアーティストの作品で知られているグラフィティ・アートの歴史は、まさにこのヒップ・ホップの歴史と共に誕生し、共に発展していきます。

 

このヒップ・ポップ文化は、現在では発祥地アメリカだけに留まらず、世界各国に広まりました。

ダンスのジャンルでは「ブレイク・ダンス」が認知され、「グラフィティ」はもはやアート・デザイン分野で確立した位置を形成し、また、ストリートカジュアルの様式の一つとしてのヒップ・ホップ・ファッションは、ファッション業界に大きな影響を及ぼすなど、多方面において、現代社会を彩る数々な新しい要素を生み出してきました。

 

テクノとデザイン

一方、テクノ(techno)音楽は、アメリカ、デトロイトを発祥とするクラブ・ミュージックです。デトロイト、シカゴのクラブで、ダンス・ミュージックの実験的なDJプレイにより生まれたこのテクノ音楽は、後にヨーロッパを主として世界各国へ広がり続け、刺激的な音を持つ、先鋭的なダンス・ミュージックというイメージを定着していきます。

電子楽器からの音源、また近年ではコンピューターを駆使して作られる音源により作られる電子音楽という位置づけからか、実験的で多彩なアートワークのポスター、チラシ、CDジャケットが多くみられます。

1990年代におけるダンス・ミュージックの金字塔とも称され、イギリスのテクノ・エレクトロロックバンドとして有名なザ・プロディジー(The Prodigy)の3番目のアルバム『Fat of the Land』のジャケットデザインは大変興味深いものです。地上の食料を求め、爪を大きく振り回しながら海から出てきたカニの姿は、ザ・プロディジーの攻撃的なビートと音楽に対する姿勢を象徴しています。

 

4)レゲエ音楽

レゲエ音楽とデザイン

後はレゲエ(reggae)音楽です。1960年代後半にジャマイカで発祥し、1980−90年代に流行したポピュラー・ミュージックであるレゲエは、思想やデザイン、ファッションと、各分野に様々な大きな影響を与えた音楽ジャンルです。

1963年に結成されたバンド、ザ・ウエイラーズ(The Wailers)や、レゲエ・ミュージシャンの代名詞であるボブ・マリー(Bob Marley、1945−1981)が有名ですが、ここでは2011年に起こったエジプト革命の際に使用されたプロパガンダ・ポスターデザインをみてみましょう。

1973年にリリースされたザ・ウエイラーズの三枚目のアルバム『Burnin’』の中のバンド代表曲であり、マリーの楽曲でもある、『ゲット・アップ・スタンド・アップ(Get Up Stand Up)』の歌詞が、このポスターの中に引用されています。


まとめ

音楽とグラフィック・デザインとの関連性を、様々な音楽ジャンルを通してみてきました。LPレコード時代では、ジャケットは中身と同じぐらい大事な『顔』として扱われてきました。

音楽シーンを表現するCDやDVDのジャケット、ポスターデザインやチラシデザインは、「聴覚」と「視覚」を一致させる総合芸術です。よく言われることですが、「名盤と語り継がれるレコードやCDは、そのジャケットも名作である」というのは間違いではないと思います。

「ポスターやチラシ、ジャケットを一見しただけで、そのミュージシャンやバンドの音楽が頭の中で即座に再生できる作品をつくる」ことが、音楽分野におけるグラフィックデザインの永久の課題なのではないでしょうか。

 

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