ミルトン・グレイザー (Milton Glaser) – ニューヨークから世界に影響を与えた多能のグラフィックデザイナー

Milton Glaser - ロゴデザイナー

ミルトン・グレイザー(Milton Glaser)は、イラストレーターとアートディレクターというふたつの顔を持ち、さまざまな領域において素晴らしい才能を発揮してきました。

ミルトン・グレイザー

グラフィックデザインを中心としながら手がけた分野は非常に広範囲で、CI・ロゴマーク、インテリアデザイン、環境デザイン、建築、出版、音楽、演劇、映画など多岐にわたっています。作品やプロジェクトの数は膨大で多種多様です。

 

ボブ・ディランのポスターデザイン

ボブ・ディランのポスター

1967年に発売されたボブ・ディランの初めてのベストアルバム『ボブ・ディランのグレイテスト・ヒット』(Bob Dylan’s Greatest Hits)にはポスターが付属していました。ミルトン・グレイザーの代表的ポスターのひとつです。ボブ・ディランの横顔のシルエットはマルセル・デュシャンの自画像にインスパイアされたと言われています。髪はアールヌーボー風の装飾的な曲線で分割されて描かれ、カラフルに塗り分けられています。サイケデリックアートのひとつの典型的な表現スタイルです。右下にはアール・デコ風の文字で「Dylan」(ディラン)とあります。ビートニク、ヒッピー、サイケデリック、フラワーチルドレンといった言葉に象徴される60年代から70年代初頭のポップカルチャーにつながる作品と言えます。

 

サイモン&ガーファンクルのポスターのオリジナルフォントデザイン

サイモン&ガーファンクルのポスター

同じく1967年には『サウンド・オブ・サイレンス』『明日に架ける橋』などの曲で有名なサイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)のコンサート用ポスターを制作しています。この作品には「Baby Fat」というグレイザーのオリジナルフォントが使われました。ピラミッドや古墳のように盛り上がって見えるタイプフェイスで、1960年代のグラフィックアートの雰囲気を感じさせるものです。おもしろいのは、ミュージシャンふたりの人物イラストもまるでBaby Fatフォントであるかのように描かれていることです。

 

変幻自在なイラストのタッチ

ミルトン・グレイザーのイラストの作風は多様です。

New York Is About New York

グレイザー自身も発行人のひとりである情報誌『New York』(ニューヨーク・マガジン)の発刊を告知するポスター『New York Is About New York』(1967年)ではクロスハッチング技法でエンパイアステートビルが描かれています。

The Night of the Snow Leopard

ニューヨーク動物園協会のためのポスター『The Night of the Snow Leopard』(1983年)では柔らかい写実的なタッチで動物を正面からとらえました。

 

I❤︎NY のロゴ

ミルトン・グレイザーの名前を知らない人でも、このロゴを見たことがあると思います。「I Love New York」(ニューヨーク大好き)というメッセージのニューヨークを頭文字「NY」に、「love」をハートマークに置き換えたものです。現在の絵文字のように言葉がシンボルに置き換られたのは、この時が初めてと言われています。

1960年代後半から1970年代前半のニューヨーク市は財政難に陥っていました。街にはゴミがあふれ、地下鉄は落書きだらけ。強盗や暴動が増加し、犯罪率は過去最高となりました。今では想像つかないほど荒廃していたのです。そこでニューヨーク州商務局は観光で財政難を克服しようと図り「I Love New York」というキャンペーンを開始しました。ミルトン・グレーザーに声がかかり、1976年に生み出されたのが「I❤︎」「NY」と2段に組まれたこのロゴでした(使用開始は1977年)。それ以来、今日まで広く使い続けられています。

2001年の9.11同時多発テロの直後、グレイザーはロゴに少し手を加えます。

I❤︎NY more than ever

ハートの左下を少しだけ黒く焦がし、単語を3つ追加して「I❤︎NY more than ever」(これまで以上にニューヨークを愛している)に作り変えました。悲劇的なテロのあと市民のニューヨークに対する思いがいっそう深まったことを表したのです。

 

ミルトン・グレイザーによる、その他有名なロゴデザイン

グレイザーの手によるロゴデザインは数多く存在しています。

自身が発刊に関わった雑誌「New York」(ニューヨーク・マガジン)のロゴ

 

SVA Theatreのロゴデザイン

グレイザーが内装・外装のデザインも手がけたシアター「SVA Theatre」のロゴ

 

DCコミックのロゴ

二大アメコミ出版社「DC Comics」(1977–2005)のロゴ

 

ブルックリン・ブルワリーのロゴ

米国のクラフトビールブームの立役者「Brooklyn Brewery」(ブルックリン・ブルワリー)のロゴ

 

教育サービスを提供する非営利団体「SEED」のロゴなどがあります。

 

ミルトン・グレイザー率いる伝説的な「プッシュピンスタジオ」

プッシュピンスタジオ

グレイザーは1950年代から70年代にかけて世界中に多大な影響を与えた米国ニューヨークのデザイン集団「プッシュピンスタジオ」(Push Pin Studios)の創設者のひとりでもあります。ニューヨーク生まれのグレイザーは名門クーパーユニオン大学(Cooper Union)を卒業後、奨学金を得てイタリアで2年間絵画の勉強をします。

帰国後、シーモア・クワスト、レーノルド・ラフィン、エドワード・ソレルの四人で「プッシュピンスタジオ」を立ち上げました。その後メンバーは入れ替わりますが、1974年に自らの会社を立ち上げるまでクワストとともに黄金期を支えます。アールヌーボーやアール・デコなどを再解釈し、伝統にとらわれないイラストレーション重視のスタイルは世界中に大きな影響を与えました。

 

「デザインとは現状から好ましい状態へ移行するプロセスである」

デザインとアートは全く別のもので、デザインの目的は問題解決であることを表したグレイザーの言葉です。

TED(www.ted.com)にグレイザーの「デザインでアイディアを一新する」という講演があります。

 

イタリアルネッサンス期の画家ピエロ・デラ・フランチェスカの作品をベースに絵を描くよう依頼されたグレイザーが、試行錯誤しながら自身の作品を追求していく過程を解説しています。元の絵は向き合う男女の顔を描いたものですが、それを基に自ら絵を描いたうえで、顔向きや構図を変えたり、別の要素を加えたりするにつれ徐々に絵の意味が変化していくのがわかります。

そのほかにも、与えられた課題からポスターデザインを創作する非常に興味深いプロセスが紹介されています。パソコンに向かってアプリを操作する前にまず手を動かしてアイデアを練るべし、という創作の秘訣がありますが、それを思い起こさせます。

 

また、グレイザーは「論理には直感ほどの力はない」とも言っています。

初期の作品に「Big Nude」(ビッグヌード、1967年)というポスターがあります。

Big Nude

腰から上をトリミングして裸体を枠からはみ出せることで「大きさ」を表現したものです。言葉に頼らずビジュアルだけでアイデアを形にするグレイザー(そしてプッシュピンスタジオ)のスタイルが現れています。

彼は別のところで次のように言っています。

「デザインの目的は目標を達成することです。アートの目的は何が本当かを理解するのを助けることです。もし根気強く、かつラッキーならば、ときにはその両方を実現する解決法に突き当たることがあります。なんとも幸福なことです!」

 

ミルトン・グレイザー(Milton Glaser)
1929年~
アメリカ合衆国
グラフィックデザイナー


【参考資料】

・Milton Glaser, Wikipedia – https://en.wikipedia.org/wiki/Milton_Glaser
・Milton Glaser – https://www.miltonglaser.com
・history of design – Milton Glaser, YouTube – https://www.youtube.com/watch?v=onzJCUFob5k
・Milton Glaser Questions Design’s Relationship with Art―and Finds an Answer, AIGA – https://www.aiga.org/centennial/centennial-voices/milton-glaser-questions-designs-relationship-with-art
・Push Pin Studios, Wikipedia – https://en.wikipedia.org/wiki/Push_Pin_Studios
・ニューヨークを救った「I♥NY」、株式会社TCD – http://www.tcd.jp/branding/06-focus/overseas_newyork_02.html
・プッシュピン・パラダイム シーモア・クワスト / ポール・デイヴィス / ミルトン・グレイザー / ジェームズ・マクミラン、ギンザ・グラフィック・ギャラリー – http://www.dnp.co.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000005
・IDEA ARCHIVE 02 ミルトン・グレイサー、アイデア編集部編、誠文堂新光社、2004.03

 

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