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スピリット複写機について

スピリット複写機の仕組み・特徴について:印刷史のなるほど雑学16

スピリット複写機について

スピリット複写機とは?




19世紀後半に考案されたヘクトグラフ(hectograph)という簡易印刷技法があります。日本では「コンニャク版」と呼ばれました。スピリット複写機(spirit duplicator)は、このヘクトグラフと同じ原理で原稿を複写する機械です。

ジンやウォッカなど強い酒をスピリッツといいますが、複写するためにメタノールなどのアルコール系溶剤を利用するのでスピリット複写機と呼ばれています。米国のDitto(ディットー)社が1923年に開発し、主に欧米諸国で普及しました。

米国で1923年に考案

最初のスピリット複写機は、1923年に米国のWilhelm Ritzerfeldが考案し、Ditto社から発売されました。北米では「Ditto」がスピリット複写機の代名詞となりました。その後、多くのメーカーがそれぞれブランドで製品を市場に投入します。北米ではRexograph、英国やオーストラリア、フランス、南アフリカでは、Banda、Romeoなどが代表的なブランドです。

学校、教会、小規模な団体など低予算で印刷できる機械として20世紀後半まで活用されました。ファンクラブの会報誌や同人誌などもスピリット複写機を使って発行されました。スピリット複写機でコピーされた印刷物は、独特のアルコールの匂いがします。学校のプリントなどで親しんだ世代は、このアルコール臭にノスタルジーを抱くようです。

 

スピリット複写機のしくみ




版を作るためには2種類の専用の紙を使います。1枚は「マスター」で、ここに原稿を書きます。マスターの裏はなめらかです。2枚目は、いわゆるカーボン紙です。着色剤(染料を含んだワックス)でコーティングされていて、紙を重ねて上から文字を書くと、着色剤が紙に転写されます。手書き領収書などで見たことがあると思います。

カーボン紙の着色剤の面を上にして、そこにマスターを重ねます。マスターに文字や図を手書きしたり、タイプライターで文字を打つと、カーボン紙の着色剤がマスターの裏に転写されます。原稿の左右が反転した状態です。これが印刷用の版となります。

版が準備できたら、マスターの裏面が外側になるように複写機のドラム(版胴)にセットします。印刷用紙はアルコール系の溶剤によって湿らされて、ドラムの下をくぐります。その溶剤でマスターの裏に付いている着色剤が少し溶けて用紙に印刷されるというしくみです。マスターの裏面に転写された着色剤の分量が印刷可能な枚数を決めます。そのため、1枚のマスターから印刷できるのは数十枚でした。

 

謄写版とスピリット複写機

特別な技術と知識がなくても原稿を複写できる技術として、ほかに謄写版(Mimeograph)があります。謄写版は日本ではガリ版という呼び方も一般的です。スピリット複写機よりも早く開発され、学校や会社で利用されていました。スピリット複写機が登場してからも複写機市場でシェア争いを続けました。


【参考資料】
Spirit duplicator – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Spirit_duplicator)
Remembering the Ditto and Mimeograph (http://thingsremembered.homestead.com
/Remembering_the_Ditto_Machine.pdf)



印刷(印刷機)の歴史

木版印刷 200年〜

文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。

活版印刷 1040年〜

ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。

プレス印刷 1440年〜

活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。

エッチング 1515年〜

「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。

メゾチント 1642年〜

銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。

アクアチント 1772年〜

「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。

リトグラフ 1796年〜

「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。

クロモリトグラフ 1837年〜

「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。

輪転印刷 1843年〜

「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。

ヘクトグラフ 1860年〜

「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。

オフセット印刷 1875年〜

「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。

インクジェット印刷 1950年〜

「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。

レーザー印刷 1969年〜

「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。


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