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DNA

米ファイザー社がDNAらせん構造をモチーフにしたロゴデザインにリニューアル

2021年1月5日(現地時間)、米国ファイザー(Pfizer)社が新しいロゴを発表しました。

ファイザー社のロゴ

golibtolibov – stock.adobe.com

ファイザー社は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発についての報道などでも名前を目にすることの多いでしょう。世界でも最大級の製薬会社です。

楕円形の中に社名「Pfizer」のワードロゴという基本的な構成は、1950年に登場して以来、変わらず維持されてきました。今回のリニューアルでは、70年以上使われてきた楕円の背景がなくなっています。また、はじめてシンボルマークの採用するなど、大きなリデザインとなりました。

ファイザー社の新しいロゴのデザインとリブランディングの背景を見てみましょう。

 

二重らせん構造にインスパイアされたシンボルマーク

親子が似ていることを、「血は争えない」といったりします。科学の進歩とともに、「遺伝だからしかたがない」とか、「DNAに刻まれている」という表現が生まれました。いまでは、ごく一般的な言いまわしとなっています。これからも「ゲノムが濃い」(注:こんな表現は存在しません)みたいな新しいことばが生まれてくるかもしれません。

DNA

ところでDNAとは、デオキシリボ核酸の略で、生物の遺伝情報が含まれている物質のことです。糸のような細長い分子構造をしていて、らせんを描きながら並ぶ2本のDNAが対になっています。これをDNAの「二重らせん構造」といいます。

ファイザー社の新しいロゴは、シンボルマークとワードロゴの組み合わせです。日本のリボンを組み合わせたようなシンボルマークは、DNAの二重らせん構造をモチーフとしてデザインされました。同社の米国サイトでは、このシンボルマークがファビコンとして使われています。

 

錠剤を思わせる楕円形の先代ロゴデザイン

ファイザーの旧ロゴデザイン

PhotoGranary – stock.adobe.com

ここで先代のロゴについて確認したいと思います。

先代のロゴは2009年に登場しました。右上がりに傾いた楕円形のなかに社名がネガティブスペースでレイアウトされています。背景のブルーはグラデーションがほどこされ、左が明るく光っているように見えます。楕円を傾けることで革新性や進歩を表現しているということです。

ドイツ出身の創業者の姓からとった社名は、ドイツ語特有の「pf」という子音で始まっています。英語にはドイツ語の「pf」の音がないため、「p」を無視して「f」で発音されます。つまり、「fire(火)」と同じような「fizer」という単語のように読まれているのです。そのために日本でも「ファイザー」という表記になっています。

ワードロゴにはデザイン面でもいくつかの特徴が見られます。

イタリックの書体はサンセリフ系ですが、セリフ系の優雅さも感じられ、Optimaなどと共通の雰囲気を持っています。先に述べた「P」と同じく目を引くのが、「f」と「i」の合字(ごうじ、リガチャ)です。合字というのは、読みやすさや美しさを保つために2文字以上が合体した特殊な文字です。ファイザーのワードロゴの場合、「f」の丸い末端と「i」の点が干渉しないように合字が使われています。欧米の書物や公式文書では合字が使われます。

ファイザーのスペルを間違って「Phizer」としているケースがネット上にありますが、「fi」の合字を「h」に見誤ったのかもしれません。また、英語の電話「Phone(フォン)」、写真「Photo(フォト)」などの単語も勘違いに影響した可能性もあります。

もうひとつのデザイン面で目を引くのは、「f」のラインが上下に長く伸ばされていることです。下端は背景の楕円を突き抜けているようにも見えます。

新しくなった点と先代ロゴから受け継いだもの




新しいロゴが先代から変わった点は、大きく2つあります。

ひとつは初めてシンボルマークが登場したこと。もうひとつが、ワードロゴの楕円形の背景がなくなったことです。

先に紹介したように、DNAの二重らせん構造をモチーフとしたシンボルマークは、とても印象的です。先代は、楕円形が錠剤を思い起こさせるきわめてシンプルなデザインでした。新しいロゴは、同じくシンプルではありますが、シンボルマークによってまったく新しい姿に変わりました。

一方、ワードロゴ部分は、先代の楕円の背景からそのまま抜き出したかのような印象です。ロゴの構成は大きく変わりましたが、ワードロゴによって従来からのブランドの一貫性が保てています。細かい部分では、いくつかのアップデートがおこなわれました。背景がなくなったので、楕円に切り取られたかたちになっていた「f」の下端は水平になり、丸みを帯びていた「e」の一部が直線に変わっています。

アイデンティティ・カラーは、同じブルー系を踏襲しながらも、従来の「ファイザー・ブルー」から濃淡2色のブルーの組み合わせに変更しました。この2色は、科学と患者に対する同社の責任を意味しているといいます。

2009年に開始されたブランディングでは、ブランドの指定フォントは、柔らかみがあり親しみやすいFS Albertという書体でした。ブランディング刷新にともなって、今回はグーグル開発のNoto Sansが選ばれました。これによって、世界中のどの言語であっても、デジタル、アナログにかかわらず、同じトーンでメッセージを伝えることができます。

 

製薬会社としての成長と楕円形ロゴデザイン

チャールズ・ファイザー

チャールズ・ファイザー氏

ドイツから米国に渡ってきたチャールズ・ファイザーといとこのチャールズ・エアハルトは1849年に化学会社チャールズ・ファイザー・アンド・カンパニーをニューヨーク州に設立します。最初のロゴは、真円のバッジ状のデザインです。社名「Chas. Pfizer & Co. Inc.」と「New York」が円に沿ってレイアウトされ、社名の頭文字「C」「P」と「Co」を組み合わせたモノグラムが中央部に置かれています。コインのようにも見えるデザインです。

1861年に勃発した南北戦争では、北軍のために消毒液や痛み止めなどの薬を提供しました。第1次世界大戦が1919年に起こると、イタリアから輸入していたクエン酸カルシウムが不足します。ファイザー社は糖を発酵させてクエン酸を生産する方法を開発します。そして、この手法を活用してペニシリンの量産に世界で初めて成功し、第2次世界大戦で連合軍に供給しました。

創立から100年を迎えようとする1948年に新しいロゴが登場します。モルワイデ図法で描かれた世界地図のような楕円形に、セリフ系書体の「Pfizer」を重ねたものです。このときから「Pf」は合字となっています。

1950年には紺色の楕円形にGaramondを思わせる書体を使ったワードロゴを白抜きしたデザインに変わります。いま見てもミニマルでモダンなデザインです。このロゴが、2020年まで続くファイザー社のロゴの原型となります。1970年には、社名も「Pfizer Inc.」と短くなりました。その後、ファイザー社は、世界各国の市場参入や企業買収などにより、世界有数の製薬会社に成長していきます。

1990年のロゴリニューアルで特徴的な長い「f」が生まれます。これは、2021年版ワードロゴの直線が多くてシャープな印象のデザインは、先代よりも1990年版に近いように思います。90年代にはリピトールやバイアグラなどの新薬を発表。その後もリステリンやシックなど医薬品以外のブランドの買収を進めます。2003年には世界最大の製薬会社となります。そして、2009年に先代のロゴへのリニューアルがおこなわれました。

 

錠剤の束縛から解き放たれて科学を極める

ファイザー社の錠剤をイメージさせるロゴは、1950年に登場したときからミニマルでモダンなデザインでした。それが70年もの長きにわたって、基本的な路線を変えずにこれた理由のひとつと考えられます。錠剤そのもののようにも見えるロゴは、製薬会社としてのアイデンティティにマッチしていたといえるでしょう。

デジタルとの親和性を獲得するために、ミニマルでフラットなロゴへデザイン変更する企業やブランドが続いています。しかし、その目的のためであっても、ファイザー社の先代ロゴは特に手を加えなくても通用するように感じます。

それでは、ファイザー社が今回のリニューアルをおこなった理由は何でしょうか。

世界の医薬品業界では、20世紀の終わり頃からバイオ医薬品の開発が盛んになってきました。バイオ医薬品は、従来の化学合成ではなく、遺伝子工学やバイオテクノロジーを使って製造します。また、錠剤ではなく、注射などで投与されるのが一般的です。

ファイザー社も21世紀に入ってから、この分野を強化していきました。また、低利益の特許切れ医薬品や大衆薬の事業を他社との合弁会社設立などにより分離し、本体は革新的な新薬開発に集中しています。

同社の公式サイトには、新たなロゴについて次のような記述があります。

「錠剤のフォルムから自由になり、弊社の事業の核心、すなわち上へ向かう二重らせんを明らかにしているのです」

大衆薬などとのつながりを感じさせる楕円形ではなく、遺伝子工学などによる革新的なバイオ医薬品に注力する姿勢を示すために、今回のリブランディングがおこなわれたのです。シンボルマークの2本のリボンは、革新をもたらす科学および患者の幸福の象徴であり、科学と患者への情熱と貢献を表現しています。

Science Will Win(科学は勝つ)

同社は2019年に、新しいCEO、Albert Bourla(アルバート・ブーラ)氏を迎えました。リブランディングのプロジェクトはそのときから開始されたといいます。しかし、昨年の新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックが発生したため中断しました。ワクチン開発に集中するためです。

2020年12月に、ファイザー社とドイツのBioNTech(ビオンテック)社が共同開発した新型コロナウイルス感染症ワクチンは、世界に先がけて英国や米国で使用許可を得ました。また、世界で初めて欧州連合(EU)に承認されたワクチンでもあります。バイオテクノロジーやワクチン製造について世界の関心が高まったこの時期がリブランディングに最適であると判断した同社は、これに先立つ11月にブロジェクトを再開します。

今回のリブランディングにあたって、同社CEOのAlbert Bourla(アルバート・ブーラ)氏は、次のように述べています。

「創業から171年、私たちは新たな時代を迎えてます。かつてないほど科学に集中し、患者に貢献する特別な時代です。ファイザー社の事業は、もはや単に病気に処置をほどこすだけではありません。弊社は病を治し、疾病を防いでいるのです」

世界がパンデミックの恐怖にふるえていた昨年4月、ファイザー社は「Science Will Win(科学は勝つ)」というプロモーション動画を公開し、医療従事者への感謝とウイルスに科学で立ち向かう姿勢を示しました。




広報部最高責任者Sally Susman氏は次のように語っています。

「単に変わったと思われたいだけの理由で外観を変えることはできません。……〔中略〕……今回のリブランディングには自信があります。なぜなら弊社は科学をおこなう企業であり革新的な薬剤を追求しているからです。新型コロナウイルスワクチンはもっとも新しい例に過ぎません」

まさにファイザー社は、新しいロゴに込めた意味を具現化して見せたのです。


【参考資料】
A New Pfizer | Pfizer (https://www.pfizer.com/new-pfizer)
Our Visual Identity | Pfizer (https://www.pfizer.com/our-visual-identity)
Pfizer tries to inject some life into its logo (but does it succeed?) | Creative Bloq (https://www.creativebloq.com/news/pfizer-new-logo)
Pfizer rebrands to mark a “new era” of science and research (https://www.designweek.co.uk/issues/4-10-january-2021/pfizer-rebrand/)
Pfizer Introduces New Logo Playing Up Role in Drug Creation – WSJ (https://www.wsj.com/articles/pfizer-introduces-new-logo-playing-up-role-in-drug-creation-11609844400)
Pfizer unveils its first major logo redesign in 70 years (https://www.fastcompany.com/90591119/pfizer-unveils-its-first-major-logo-redesign-in-70-years)
ファイザー株式会社 – ファイザー社(米国本社)の歴史 (https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/history-us/index.html)

※公式WEBサイト情報もあわせてご確認ください。



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