デジタル表現に新たな旋風を起こす、スペインのデザイナーのポスターたち

メッセージを大衆に伝えるという目的を持つグラフィックデザインの歴史は古く、古代の壁画がグラフィックデザインの発祥だと言われています。その後、15世紀のドイツ、グーテルベルグの活版印刷発明や19世紀の産業革命を経て、同じ作品を複数生み出すことができる 商業的グラフィックデザインの必要性が時代と共に高まってきました。日本では、江戸時代に花開いた浮世絵、それも版元の名前を表記しているものが日本での最初の「広告」とも言われています。基本的なグラフィックデザインの作業の流れは、それぞれの専門家に分業された『版下』、『図案作成』、『製版』。デザイナーの図案の作成、文字や写真、またイラストレーションのレイアウトの調整、色校正など、どの時代、どの場所においても全て手作業で行われてきました。コンピューターを使ってこの『版下』『図案作成』『製版』の作業が一人で行われるようになり始めたのは1980年代の後半から。

現在に至っては、グラフィックデザインの作業にはコンピューターは欠かせないものとなりました。手作業からコンピューターへの切り替え時には、「作品の味はやはり手描きに限る。」とか、「コンピューターでできることは限られる。」など、グラフィックのデジタル化移行への論争もしばしば繰り広げられるましたが、グラフィックアプリケーションの改良や、若いデザイナーの積極的な利用を通して、今では手作業では不可能に近い作品を作り出すことにも成功しています。

コンピューターでの作業と言っても、デザイナーの器量が問われるのは言うまでもありません。誰でも使えるコンピューターだからこそ、デザイナーの質で作品の優劣が決まります。今日はグラフィックデザイン界に新しい旋風を起こしたスペインのデザイナー Cristian Eres 氏の作品を見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Cristian! )


Cristian Eres氏はスペインのヴァレンシアに滞在するイラストレーターです。15歳の時に第1作目のデジタルアートを制作。2012年にグラフィックデザイン科を卒業しました。イラストレーション、写真、アニメーション、オーディオを使った最新デジタルアートに焦点を絞った国際的なアート集団である『Depthcore』と、デジタルと伝統の両分野で独創性や創造性を追求し活動を続けるアーティストを抱える近代的国際美術グループ『The Luminarium』のメンバーでもあります。どちらのグループもデジタル時代のコミュニケーションとクリエーションを推奨し、デジタルアートの境界の拡張を目標とした活動を繰り広げ、Eres氏も世界中のデザイナーやアーティストと共に、オンライン・アート展示に積極的に参加しています。

ライブポスター集

まず初めに見て頂くのは、彼の作品Another Planet Entertainment社のギグポスター(コンサート/ライブ・ポスター)です。2003年に設立したAnother Planet Entertainment社は、サンフランシスコのベイエリアと北カリフォルニアで、クラブ、スタジアム、劇場、シアター、市民ホール等で年間52週間のイベントを展開している会社です。

最初に印象付けられるのは、なんといってもポスターの色使いです。カラフルな色調とグラデーション、また、繊細なイラストレーションで構成されていることが一見してわかりますが、これらの作品の一番大きな特徴は、一つ一つの作品には基調となるメリハリのついたカラー・トーン(色調)を設定、そしてそれに準じたバランスの取れたカラースキームによって制作されていることです。

ここで、個々の作品に使われているカラー・トーンを見ていきましょう。

彩度の高めなポスターデザイン

PARDON MY FRENCHのポスターには、基調トーンは高彩度のストロング・トーン。このトーンは比較的強い色を採用(この作品の場合はムラサキ系統)アクティブで情熱的なイメージを作り上げます。

 

フェミニンな印象のポスターデザイン

DEFTONESは、低彩度のペール・トーン。このトーンの特徴は薄い色(この作品は淡ピンク、淡黄色系統)で、フェミニンな優しい、そして落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

 

深い色味のポスターデザイン

FLYING LOTUS、こちらも高彩度ですが、トーンとしてはデイープ・トーン。このトーンは濃い色(この作品は青系)の使用で、深く、堂々とした、そして密なイメージを与えるトーンです。

 

中彩度のポスターデザイン

STURGILL SIMPSONのポスターには中彩度のダル・ドーン。鈍い色(この作品はグレー系)で、穏やかであり円熟なイメージをもたらします。

このように、色の明度と彩度によって分けられる色の系統であるカラー・トーンにはそれぞれそのトーンが持つイメージを持っています。Eres氏は一連のこのギグ・ポスターのデザイン制作過程において、イベントの内容や演目の構想に合わせながらそれぞれのカラー・トーンのイメージを上手に活用し、アート作品としてまとまりのあるポスターデザインを生み出しています。


サイケロックバンドのポスター

こちらの作品は、サイケデリック・ロックバンドTame Impalaのギグ・ポスターデザインです。サイケデリック(psychedelic)というと、幻覚剤によってもたらされる様々な心理感覚や、極彩色のぐるぐる渦巻くイメージ、ペイズリー模様等が浮かびます。

しかし、Eres氏の手にかかると、サイケデリック・ロックの様相も幻想的なアレンジを施されながらも、どことなくファンタジーの世界を想像させるテイストに仕上がっています。Eres氏の作品を介して追求するデザイン哲学は、「自然」と「これまでに体験したことのない新しい世界」との抽象的な関係を探し求めること、だそうです。残念ながらこの作品は、アメリカ カリフォルニア州ロサンゼルスのグラフィックデザイン事務所、DKNG Studiosが行なったワークショップ(Rock Poster Design Workshop)で作成されたもので、実際には使用されなかったものですが、Eres氏のデザイン哲学そのものを表している貴重な作品であると言えます。


繊細なグラフィックデザイン

こちらの作品をご覧になられたグラフィックデザイナーはたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。グラフィックデザイナーなら間違いなく利用しているAdobe社のアプリケーション、”イラストレーター”の起動画面に起用されている作品です。

Eres氏は2013年にコンピューターのデスクトップの壁紙展Desktopographyにこの作品『Surroundings』を発表。2017年のAdobe Illustrator CC2のプロモーション作品として採用され、多くのデザイナーから賞賛を受けました。

Adobeの起動画面に起用

Eres氏の作品制作は、1970年代のSFの世界や同時期の活躍したファンタジー・アーティストたちに原点を持っているそうです。とりわけ、日本の漫画界へも大きな影響を残し、『エイリアン』をはじめとして多数のSF映画にもデザイナーとして関わりのあった、『メビウス(Moebius)』のペンネームでも知られるフランスの漫画家、Jean Giraud (本名ジャン・アンリ・ガストン・ジロー、1938—2012)の思想や活動に多大な影響を受けていると述べています。

作品タイトルの『Surroundings』とは、人や場所を取り巻く地理的な環境や境遇を意味します。イラストレーターの持つあらゆる画像制作技法を屈指して出来上がっているこの作品は、手作業を上回るような繊細で緻密なカラーリングを施し、Eres氏の求める「実際の環境」と「未体験の環境」を繋ぐファンタジーな世界を生み出しています。Jean Giraudの数々の作品と同様、一見すると抑揚を抑えて写実的に描かれたこの世界は、ファンタジーでありながらも、いかにも実在する様に錯覚させられる作品です。これは、デザイナーとして圧倒的な画力と想像力を擁するCristian Eres氏だからできたのではないでしょうか。


長いグラフィック・デザイン史において、手作業ではなくコンピューターで作品を制作するようになったのはつい最近のことです。作業環境を選ばず、コンピューターさえあれば、いつでもどこでも作品を作り上げられるこの時代。いかに見る人の心に残る様な強い印象を残す作品を制作することができるかは、グラフィックデザインに携わるデザイナーの永遠のテーマかと思います。Cristian Eres氏の作品はその一つの解答なのではないでしょうか。

design : Cristian Eres ( Spain )

 

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