トリックアートのような本の表紙デザイン

トリックアートのような本の表紙デザインについて

海外旅行をしていると、電車やバスだけではなく、公園のベンチで読書を楽しんでいる人を多く見かけます。そしてその手にある本は日本の文庫本サイズではなく、ハードカバーの単行本くらいのサイズのものばかりで、そのデザインも多彩でおしゃれなものばかり。ワインでいうところのエチケット、レコードでいうところのジャケット、本にとっての表紙は、その本を象徴するものです。

今回は、まるでトリックアートのような、思わず手に取りたくなるような表紙デザインを集めてみました。しっかり目を凝らして、そこに隠れたメッセージを受け取ってください。

 

10代の迷いを視覚化した表紙デザイン

小説の表紙デザイン作成例

アメリカ人作家ジョン・ダニエルのデビュー作「Wolf in White Van」の表紙デザインです。自殺を試みるためにライフルを持って旅に出る10代の少年を主人公にした小説です。結局自殺に失敗し、誤って顔を撃ち抜いた結果、その後顔復元手術を受け、深い悲しみに苦しむ少年のもがきが描かれています。先が見えない、終わりのない苦しみが、この迷路のような表紙パターンに投影されているようです。

本のタイトルも、迷路のパターンの一部のようになっていて、見えそうで見えない感覚を誘い、小説の中の少年の目線を疑似体験する入り口のようにも感じられます。少年の自殺という重いテーマを扱う作品とは思えないほどの、鮮やかなブルー系の色使いが、10代という「青春」時代を意味しているのかもしれません。書店で平積みされていたら間違いなく目を引くという点で、宣伝効果も高く、表紙としては非常にパワフルな表紙デザインです。

 

波の動きが見えてくる不思議な表紙デザイン

小説家ポール・ラファージの作品表紙デザイン

アメリカ人小説家ポール・ラファージの「THE NIGHT OCEAN」の表紙デザインです。19世紀初頭に活躍した怪奇小説・幻想小説の先駆者として有名なハワード・フィリップス・ラブクラフト(H.P Lovecraft)へのオマージュと評論されたことからも分かるように、精神科医の妻と精神病院から逃げ出して湖で投身自殺を図ろうとするその夫を主人公にしたお話です。タイトルにある「夜の海」は、吸い込まれそうな不思議なパワーがありますよね。この表紙デザインは、その不思議な引力が立体的に描写されています。だんだん波が動いているようにも見えてくるような感じもある、まさにトリックアートのようなデザインです。

実際、小説の内容も書評を見る限りかなり複雑な構成で、現実か幻想かの区別も曖昧だということを踏まえると、この表紙にある海から天に伸びている手にも何重もの意味が込められているようにも感じます。満月を見ると心が昂ると言われていますが、夜の海を照らす満月という構図、そしてその満月部分に書かれているタイトルに、何かメッセージが隠されているのかと深読みしてしまいます。不気味なのにどこか幻想的で美しい表紙デザインです。

 

だまし絵のような思わず目を細めてしまう表紙デザイン

映画論をまとめた書籍のデザイン

フランス人哲学者ジャック・ラシエールの映画論をまとめた書籍「The Intervals of Cinema」の表紙デザインです。2枚の全く異なる写真が重ねられ、錯視が起きるのではないかと、思わず目を細めたくなります。ラシエールは、映画を文学と演劇との比較で論じており、映画は演劇を否定し、それと同時に演劇の夢を実現していると述べています。観客が目にする映画のスクリーンは文学的要素・演劇的要素が欠如しているという論がベースとなった内容であることを考えると、この表紙のイメージが「映画」そのものを表しているのかもしれません。どちらの画も、人物の表情を見てとる要素が欠けており、そこには大きなスクリーンを意識した「見え方」を重視しているのが「映画」だと伝えているのか、と捉えることもできます。

映画と文学、そして演劇の違いを哲学者が語るというのは非常に興味深く、学術的なイメージをもってしまいますが、その表紙があえて映画を体現するような視覚に訴えるデザインが使われているところが、この作品の序章のようで、表紙以上の役割を果たすデザインになっています。

 

声が浮き上がってきているように見える立体的な表紙デザイン

短編小説集の表紙デザイン作例

アメリカ人作家スティーヴン・ミルハウザーの短編小説集「Voices in the Night」の表紙デザインです。人間のもつダークな憧れをテーマにした内容で、欺瞞の慎みが、独特なスタイルで書かれています。白と黒のストライプという至ってシンプルな装丁と思いきや、この表紙を見たら思わずその表面を手で触れたくなるでしょう。この本で書かれた様々な「Voices(声)」が溢れ出そうになっているということでしょうか。ストライプに波が立っているような、ページが盛り上がっているような、見れば見るほどいろいろな解釈が生まれてきませんか?「行間を読む」という言葉がぴったりくるような構図で、一見したら見えない何かがあるのかもと考え込んでしまいます。

作者スティーヴン・ミルハウザーは、1996年に「Martin Dressler: The Tale of an American Dreamer(マーティン・ドレスラーの夢)」という長編小説でアメリカの文学・報道・雑誌などの功績を称えて授与されるピューリッツァー賞を受賞しています。有名作家が紡ぎ出す物語の声を、シンプルなのに複雑さが見え隠れする表紙デザインが見事に引き立てています。

 



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