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昇華転写印刷について

昇華転写印刷の仕組み・特徴について:印刷史のなるほど雑学21

昇華転写印刷について

昇華転写印刷とは?

昇華(しょうか)転写印刷は、熱を加えることで染料インクを気化させて布地を染める手法です。まず、コンピューターで作成したイメージを、昇華型プリンターで転写用紙に印刷します。用紙には反転したイメージが印刷されます。用紙を布地に密着させ、熱を加えてイメージを布地に転写します。




布地の場合、ポリエステル素材へ印刷すると、発色がよく鮮明です。写真やイラストも布地に転写できます。パソコンと昇華型プリンター、プレス機をそろえれば、小規模事業所でも昇華転写印刷でオリジナルグッズが製作可能です。デザインTシャツやプリント生地の作成に利用されています。

昇華転写印刷は、布地以外にポリエステル素材のマグカップなどにも利用されています。陶器や金属、ガラスなどの素材でも、表面をポリエステルでコーティングすることで、イメージを転写できます。

昇華転写方式は、ドットごとにインクの濃度を256段階で調整できるため、美しい階調表現を特徴としています。デジタルカメラやビデオカメラの専用小型プリンター、いわゆるフォトプリンターの多くは昇華転写方式です。

1950年代にフランスで考案

染料が高温で昇華しやすいことを、フランスのNoël de Plasseが1957年に発見しました。この発見に基づいて、Sublistatis SA社が昇華転写技法を事業化します。

1960年代後期から70年代初期にかけては、染料を塗ったテープを使ったアナログ的な方法で転写用紙に印刷されていました。

1970年代の中頃に、米国のジェット推進研究所のWes Hoekstraが初のコンピューター制御による画像昇華システムを開発します。これによって、Hoekstraは、デジタルイメージによる昇華印刷の父とされています。

1981年に、世界初の電子スチルカメラ「マビカ」をソニーが開発します。そのマビカ用の出力機として、1986年に昇華転写方式のプリンターが製品化されました。

1990年代の終わりから2000年代にかけて、テキスタイルの世界でデジタル印刷技術が急速に進歩します。また、インクジェット印刷技術を活用した昇華転写印刷が広まって、現在に至ります。

 

熱で染料を気体にして布地を染める

昇華印刷

ポリエステルの布地に、イメージを印刷した転写用紙をあてて、プレス機で熱を加えると、転写用紙の染料インクが気化します。同時に、ポリエステルのポリマー(分子が連なったもの)にも熱によって、一時的にすき間ができます。そこへ染料インクの気体が入り込んで、繊維のなかに拡散することで、布地が染められます。

昇華型プリンターには、昇華インクを印字方法の違いによって、リボン、インクジェット、レーザーの3タイプに分けられます。

昇華リボン(昇華インクを塗ったリボン)を使うタイプは、インク濃度のコントロール精度が比較的高く、フォトプリンターなどがリボンタイプです。初期の昇華転写プリンターは、このタイプでした。

インクジェットタイプでは昇華インクを使います。プリンターの機構は一般的なインクジェットプリンターと同じです。高品位な階調表現ができるので、写真もきれいに転写できます。

ピエゾヘッド方式のインクジェットプリンターの場合、インクカートリッジを昇華インクに付け替えるだけで昇華転写印刷に使えます。業務用の大型なプリンターでは、プリント生地や、のぼり、バナーなどの印刷が可能です。




昇華トナーを使ったレーザープリンターは、階調表現ではインクジェットプリンターにはかないませんが、印刷速度の速さやトナーの保存期間などが長所です。色の濃い布地にも印刷できる点も大きな違いです。白トナーが使える機種もあります。

 

実際は昇華ではなかった「昇華転写」

物質は、温度や圧力など環境によって、固体・液体・気体のいずれかの状態になります。たとえば、温度が上昇すると、氷(固体)は水(液体)になり、さらに温度が上がると水蒸気(気体)になります。物質や条件によっては、途中で液体にならずに、固体からダイレクトに気体に変わる場合があります。これを「昇華」といいます。常温で昇華するものに、ドライアイス(二酸化炭素の固体)やナフタレンなどがあります。

染料に熱を加えると気化することが発見された当初、染料が固体から気体に「昇華」していると考えられました。そのため、「染料昇華(dye-sublimation)」と名付けられます。その後、液化を経て気化していることがわかったので、「染料拡散(dye-diffusion)」と呼び方が変えられました。しかし、一部の専門的な領域以外では定着せず、いまでも一般には「染料拡散」の代わりに「昇華」が使われています。


【参考資料】
Dye-sublimation printing – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Dye-sublimation_printing)
Brief History of Dye Sublimation Printing by Dr Justin Hayward, Cambridge Investment Research (https://www.linkedin.com/pulse/brief-history-dye-sublimation-printing-dr-justin-hayward-hayward/)
サーマルプリンター – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/サーマルプリンター)



印刷(印刷機)の歴史

木版印刷 200年〜

文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。

活版印刷 1040年〜

ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。

プレス印刷 1440年〜

活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。

エッチング 1515年〜

「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。

メゾチント 1642年〜

銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。

アクアチント 1772年〜

「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。

リトグラフ 1796年〜

「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。

クロモリトグラフ 1837年〜

「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。

輪転印刷 1843年〜

「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。

ヘクトグラフ 1860年〜

「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。

オフセット印刷 1875年〜

「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。

インクジェット印刷 1950年〜

「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。

レーザー印刷 1969年〜

「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。


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