アラン・ペコリック(Alan Peckolick)-「文字に語らせる」ことができたグラフィックデザイナー

Alan Peckolick_デザイナーアーカイブ

カウンターカルチャーの隆盛にともない、1960年代から70年代の米国グラフィックデザイン界では、写真やイラストではなく文字がメインビジュアルとなって力強くアピールするデザインが活躍しました。デジタルテクノロジーが市民生活とは無縁だった時代、優美な手描きのタイポグラフィで人々を魅了したグラフィックデザイナーがアラン・ペコリック(Alan Peckolick)です。

アラン・ペコリックのデザイン

ペコリックは企業ロゴも手がけています。アシックス(Asics)やレブロン(Revlon)のロゴからはいまでもペコリックのデザインが息づいているのを感じ取れます。

 

「表現的タイポグラフィ」

アラン・ペコリックとその師匠ハーブ・ルバーリン(Herb Lubalin)のデザインは「expressive typography」と呼ばれています。「表現的タイポグラフィ」または「表現タイポグラフィ」といった意味の「expressive typography」は、写真や絵などの一般的な視覚的要素ではなく、文字そのもので人に訴えかけようという考え方にもとづいています。言葉だけでなく、文字の形・デザイン・組み合わせでメッセージを伝えるのです。

「字形には単語のスペリングを単に示すだけでなく、はるかに多くのことができます。実際、激しい怒りや喜び、あせりといったものを表現できます。動き、柔軟性、丸っこさを見せることができます。批判的になったり、ほめてくれたりします。読者が文字を単に読むだけではなく文字が意味するものを本当に感じることができたときに文字の形は最高の状態なのです」(アラン・ペコリック談)

表現的タイポグラフィでは言葉は写真や絵のサブの要素ではなく、デザインの中心的な存在となります。

 

文字への情熱と自在な表現

表紙デザイン

ペコリックが出版した『Teachning Type To Talk』という作品集に『Beards』(ヒゲ)という本の表紙デザインが掲載されています。豊かに伸びたヒゲのようなタイトルの文字が男性の顔のイラストに組み合わされています。

表紙デザイン2

また、暴君ネロ、大王アッチラ、マルキ・ド・サドなど古今の荒くれ者や無法者の話をまとめた『The Bedside Book of Bastards』という本では、タイトルの文字が人物の顔のようになっています。組み合わされているヒゲは芝居などの悪役の象徴として使われるタイプのものです。複数の人物を扱っているので特定の顔にならずにいろいろと想像できるのがおもしろいです。字間がタイトに組まれている点、セリフやスウォッシュが躍動的で変幻自在である点、またそれが文字を結びつけてテキスト全体が一体化している点、どことなくユーモラスな点などペコリックのタイポグラフィの特徴が表れています。

文字のデザインの基本的なセオリーに「むやみに多くの書体を混ぜない」「文字の大きさには合理的な優先順位をつける」というものがあります。

格言ポスターデザイン

ペコリックがデザインしたユダヤの格言のポスターは一見そのセオリーに逆らっているようですが、言葉の意味を邪魔しないだけでなく、むしろタイポグラフィによって瞬時に感じ取ることができます。文字自体のデザインが人にどのように影響を及ぼすかを知り尽くしたペコリックならではの高度な表現です。

 

「cat」ではなく「c」「a」「t」

広島平和記念資料館のためにペコリックが制作した反戦ポスターがあります。「No More War, or Just No M_re!」というテキストが組まれているのは、特徴的なセリフを持つ「Avant Garde Latin」という珍しい書体です。
反戦ポスター

テキストは「戦争をなくすか、それとも__をなくすか」と訳せます。

最後の単語「M_re」は本来なら「More」となるべきところです。また、「No More War」と同じく「No More」のあとになんらかの単語がなくては英語表現としては不完全です。このままでは何を「なくす」のかがわかりません。このテキストには4つの「o」がありますが、それがすべて宇宙から見た地球の写真に置き換わっています。ですから、「M_re」にも地球を入れるべきですがここだけありません。すなわち、なくしてしまうのは地球というわけです。戦争をなくしますか、それとも核戦争で地球をなくしますか、というメッセージをあるべきところにない地球で表現したのです。

アルファベットの「O」に別の要素を入れ込んだり、組み合わせたり、他のものに見立てるのは、師匠ハーブ・ルバーリンも好んだ手法です。文字を単語を構成する要素としてだけでなく、そのものの形をグラフィックの目でとらえたデザインの一例です。

「私にとっては、もしある言葉が美しいとすれば、私がひきつけられたのは言葉の響きではなく言葉の見え方でした。私は文字の形をデザインの構成要素として見たのです。つまり、catという単語は『猫』ではなく『c』『a』『t』なのです」(アラン・ペコリック談)

 

文字の力で訴える企業ロゴデザイン

アラン・ペコリックは企業ロゴも数多く手がけています。シンプルなワードロゴにも文字そのものに息吹きを感じるペコリックならではのデザインを見ることができます。

レブロンのロゴデザイン

たとえば米国の化粧品メーカーレブロン「Revlon」のロゴは比較的オーソドックスなものです。美や女性らしさといったものを強く打ち出したデザインではありません。その代りにペコリックは「L」と「O」を結合させたデザインで、美貌・興奮・革新の出会いでうまれるライフスタイルをそれとなく暗示しているのです。ペコリックは「表現的タイポグラフィはスタイル上の技といったものではなく、文字のデザインで意味を伝えるものだ」とある記事で述べています。

ニューヨーク大学のロゴ

優雅な曲線と文字の結合が特徴的なニューヨーク大学(New York University)のロゴは、全体が緊密にまとまっていてペコリックらしいタイポグラフィ表現の典型といえるでしょう。

ゼネラル・モーターズのロゴ

一方、自動車ブランド、ゼネラル・モーターズ(General Motors)のロゴは、サンセリフの「GM」モノグラムのしたに太いバーを配した極めてミニマルなものです。青で優秀さと信頼性を表し、白で純粋さ、魅力、品位を表現しています。

 

アシックス・タイガーに息づくペコリックのデザイン

ペコリックは日本のスポーツシューズメーカー「アシックス」のロゴにも関わっています。ルーツにオニツカ株式会社を持つ株式会社アシックスは、1977年に設立されました。

アシックスとアシックスタイガーのロゴデザイン

同時に発表された「Asics」「Asics Tiger」ブランドのロゴはハーブ・ルバーリンとアラン・ペコリックが手がけました。この時の「Tiger」は「Asics」ロゴとは異なる書体が使われています。その後、「Asics」ロゴは1987年に少し細めに変更されました。2015年1月に「アシックス」「オニツカタイガー」に続く第三のブランドとして「アシックスタイガー」ブランドが復刻されたことをうけ、翌2016年にはルバーリンとペコリックのオリジナルロゴが復活します。組み合わせる「Tiger」のロゴもリニューアルされました。

リブランディング事例

タイトに組まれた文字が緊密につながりあってひとつの有機的なかたまりとなっているロゴには、アラン・ペコリック、そしてルバーリンのデザインのエッセンスが強くうかがえます。

価値のある資産を見事に現代によみがえらせたこのリブランディングは、カナダを拠点とするBruce Mau Design(ブルース・マウ・デザイン)とデンマークベースのKontrapunkt(コントラプンクト)が手がけています。Kontrapunktは、ルバーリンとペコリックの「Asics」のロゴを元に新しい書体を作り上げました。「Asics Tiger」と名付けられた書体は店頭からパッケージや印刷物まで展開され、当然ながら「Asics Tiger」のロゴに完璧にマッチしています。

 

書体「Avant Garde」を生んだハーブ・ルバーリンに師事

アラン・ペコリックは1940年にニューヨークで生まれました。1964年にプラット・インスティテュート(Pratt Institute)大学を卒業後いくつかの広告代理店を経て、ハーブ・ルバーリンのデザインスタジオで助手としての職を得ます。ルバーリンのデザイン哲学を学び、1968年には自らのデザイン事務所を開きます。1972年に今度はパートナーとしてルバーリンと会社Lubalin Peckolick Associatesを設立しました。

「タイポグラフィは紙面に文字を置くだけのものではなく、イラストや写真のように視覚的に説明できるメディアだといつも思っていた。」とはルバーリンの言葉です。

1980年代初期には数年間ですが、シーモア・クワスト(Seymour Chwast)と組んでプッシュピン・ルバーリン・ペコリック(Pushpin Lubalin Peckolick)として活動したこともありました。

ミルトン・グレイザー(Milton Glaser)などとともにプッシュ・ピン・スタジオ(Push Pin Studios)を設立した伝説的なグラフィックデザイナーです。

アラン・ペコリックはすべてのデザインをフリーハンドで行いました。また、看板、ポスター、標識など、世の中の消えゆくタイポグラフィを写真に収め、デザインのヒントにするとともに、それらを題材に絵も描いています。1998年からは画家としての活動を始めました。

 

アラン・ペコリック(Alan Peckolick)
1940年~2017年
米国
グラフィックデザイナー、画家、フォトグラファー


【参考資料】
・Alan Peckolick、Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Alan_Peckolick)

・Brand New: New Logo and Identity for ASICS Tiger by Alan Peckolick and Bruce Mau Design
(https://www.underconsideration.com/brandnew/archives/new_logo_and_
identity_for_asics_tiger_by_alan_peckolick_and_bruce_mau_design.php)

・Why the expressive typography guru avoids Helvetica | Creative Bloq(https://www.creativebloq.com/computer-arts/why-expressive-typography-guru-avoids-helvetica-11410334)
・How To Fall In Love With Letters, According To A Typography Icon | HuffPost(https://www.huffpost.com/entry/how-to-fall-in-love-with-letters-according-to-a-typography-icon_n_55f1c8bbe4b03784e2786466?guccounter=1)
・株式会社アシックス アシックスの歴史(https://corp.asics.com/jp/about_asics/history)

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