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インクジェット印刷機

インクジェット印刷の仕組み・特徴について:印刷史のなるほど雑学19

インクジェット印刷機

インクジェット印刷とは?

スマートフォンやパソコンなどデジタル機器の出力装置としては、もっとも身近といえるインクジェットプリンター。レーザープリンターが、オフィスやコンビニ、学校などで多く使われるのに対し、家庭や個人使用のプリンターとしては、インクジェット方式のプリンターを所有しているのが一般的でしょう。

インクジェットプリンターは、比較的安価で使いやすいので、パソコン用の簡易型プリンターとして広く普及しました。その後、改良が重ねられて、高品位画像も印刷できるようになりました。また、プリンター・スキャナー・複写機・ファックスなど、従来は別々の製品で提供していた機能をひとつにまとめた複合機が登場します。

インクジェットプリンターには、家庭用モデルから、高品質な業務用機種までさまざまな種類があります。また、印刷用紙以外の布・プラスチック・金属などの素材、そして立体物にも印刷可能です。

 

インクジェット印刷の原理

インクジェット印刷は、液体インクをとても細かい滴(しずく)にして、用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。

活版印刷や版画などのように、版面に付けたインキに用紙を重ねて圧をかけて転写させる方式とは異なり、「非接触」というのがひとつの特徴です。ハンコではなく、霧吹きやスプレーによる着色のイメージです。

しかし、吹き付ける精度がスプレーなどとはまったく違います。インク滴の直径はミクロン(1000分の1ミリ)単位のごく微細なものです。その1滴1滴を、印刷対象物の目的の箇所に向けて正確に噴射します。

文字や画像の描画は、パソコンなどのデジタル機器から送られてくる信号に基づいておこなわれます。版下や製版の工程は必要ありません。また、印刷後に熱を加えてインキを定着させたり、といった処理も不要です。

1950年代に考案され80年代に広く普及

独シーメンス(Siemens)社が、1950年代にコンティニュアス型のインクジェットプリンターの特許を公開しました。

1960年代には、米国のVideoJet社やMead社からコンティニュアス型のインクジェットプリンターが産業用機器として市場に導入されました。1976年に、米IBM社からオフィス用インクジェットプリンターIBM 6640が発売されます。

1970年代には日本企業を含む各社でオンデマンド型に関する特許が続きました。1977年にシーメンス社からPT80iが発売されます。これはピエゾ方式を採用したインクジェットプリンターとしては世界で最初に発売された製品です。

サーマル方式のインクジェットプリンターは、1984年に米ヒューレット・パッカード(Hewlett-Packard)社からHP ThinkJetが、1985年に日本のキャノン社からBJ-80が相次いで発売されました。キャノン社のサーマル方式は「バブルジェット方式」という名前でした。1986 年にはヒューレット・パッカード社からカラー印刷が可能なPaintJetが発売されます。

 

インクジェットプリンターの代表的な印刷方式

インクジェットプリンターは、どのようにインク滴をコントロールするかによって、コンティニュアス型とオンデマンド型に分けられます。

コンティニュアス型

コンティニュアス型では、インク滴はノズルから連なって押し出され続けています。超音波発振器によって規則正しく押し出されたインク滴は、帯電させられた後に偏向電極のあいだを通過します。このとき、描画用の信号に基づいて進路を曲げられ、用紙表面に印刷される仕組みです。進路を曲げられなかったインクは再利用のために回収されます。




コンティニュアス型インクジェットプリンターは、高速印刷が可能である一方で、装置が大がかりです。製造ラインでのロット番号の印刷など、主に産業用途で使われています。

オンデマンド型

オンデマンド型は、必要なタイミングでインク滴を噴出する方式です。描画用の信号に応じて、ノズルのインクに瞬間的に圧力を加えて押し出します。家庭用モデルやオフィス用小型製品のほとんどがオンデマンド型です。

ピエゾ方式とサーマル方式の仕組み by Javachan (CC BY-SA 3.0)

オンデマンド型では、圧力を加える代表的な方法として、ピエゾ方式とサーマル方式があります。ピエゾ方式は、電圧で変形するピエゾ(圧電)素子を使います。必要なタイミングで素子を変形させてインク滴を押し出します。サーマル方式は、ノズルのインクに熱を加えて気泡を発生させます。インク滴が気泡に押されて噴出する仕組みです。

 

非接触印刷のために広がる応用技術

インクジェット印刷は、インクヘッドを対象物に接触させずに、目的の箇所に正確にインク液を付けることが可能です。そのため、さまざま用途に応用されています。

ペットボトルや食品パッケージなどの賞味期限やバーコードの印刷に使われているのもインクジェット印刷技術です。

チョコレートの為のフードプリンター

・チョコレートの為のフードプリンター

食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンターでは、食べ物に印刷できます。クッキーやせんべいに文字やイラストを印刷したり、写真をケーキに印刷したりできます。




高精度で緻密に印刷できるため、電子回路基板や有機ELディスプレイなど、精密機器の製造への応用が実用化または研究開発されています。また、インクの代わりに樹脂を噴射することで立体物を造形する3Dプリンターの開発も進められています。

 

インクジェットプリンターで制作するアート作品「ジークレー」




米国のIris Graphics社が、1985年に高解像度インクジェットプリンターを開発しました。当時のインクジェットプリンターのインク滴の40分の1サイズで緻密な描画が可能。大判の用紙にも印刷できる機械でした。そのため、インクジェットプリンターとして初めて、商業印刷の色校正に使われました。

高画質で印刷できる能力に着目したアーティストが、写真やイラストなどの作品をIris Graphics社のプリンターで出力して作品とするようになります。その後まもなく、オフィスや家庭で使われるインクジェット印刷と区別するために「giclée(ジークレー)」という名前が生まれます。

当初は、Iris Graphics社のプリンターで印刷したアート作品を「giclée(ジークレー)」と呼んでいましたが、現在では、高画質インクジェットプリンターで制作した作品全般に対して「ジークレー」が使われています。ジークレー作品は、版画やシルクスクリーンと同じように、エディション番号をふられ限定作品とされるのが一般的です。

プリンターのメーカーの違いによって「ピエゾグラフ」「イメージプログラフ」などの呼び方がされる場合もあります。


【参考資料】
Inkjet printing – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Inkjet_printing)
インクジェットプリンター – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/インクジェットプリンター)
Giclée – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Giclée)
Iris printer – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Iris_printer)



印刷(印刷機)の歴史

木版印刷 200年〜

文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。

活版印刷 1040年〜

ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。

プレス印刷 1440年〜

活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。

エッチング 1515年〜

「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。

メゾチント 1642年〜

銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。

アクアチント 1772年〜

「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。

リトグラフ 1796年〜

「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。

クロモリトグラフ 1837年〜

「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。

輪転印刷 1843年〜

「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。

ヘクトグラフ 1860年〜

「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。

オフセット印刷 1875年〜

「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。

インクジェット印刷 1950年〜

「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。

レーザー印刷 1969年〜

「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。


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