ブエノスアイレス近代美術館がブランドリニューアル – カスタム書体による新ロゴへ
- 2019/11/6
- ロゴニュース
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスは「南米のパリ」と呼ばれる文化の香り高い都市です。美術館や博物館が複数ありますが、そのひとつ「ブエノスアイレス近代美術館」が2019年10月8日(現地時間)に新たなブランディング・アイデンティティを公開しました。シンボルマークとワードロゴがともに印象的なブランド・リニューアルの意図は何でしょうか。
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ミニマルなモノグラムと独特な書体のワードロゴデザイン
※旧ロゴ(左)と新ロゴ(右)
ブエノスアイレス近代美術館(Museo de Arte Moderno de Buenos Aires)の新しいロゴ(右)のシンボルマークは、角の丸まったパルス波形のようなデザインです。ワードロゴが「Museo Moderno」とあることから、その頭文字「M」をふたつ組み合わせたモノグラムであることがわかります。文字がつながっている点が異なりますが、ワードロゴと同じ書体で構成されています。モノグラムとはいえ、幾何学模様であるかのような不思議な印象を受けます。
また、基となる書体が同じなので、シンボルマークとワードロゴが完璧に一体化しています。「U」「S」「E」「N」にも「M」と同様の曲線が反復されているので、ロゴ全体を見ているとワードロゴが文字ではなく幾何学的な図形を並べているかのようなゲシュタルト崩壊にも似た感覚を覚えます。
約2年の調査期間で見えた美術館の課題とは
今回のブランド・リニューアルを手がけたのは、デザインスタジオ「Gorricho Diseño」と、フォントデザインスタジオ「Omnibus-Type」です。いずれも地元アルゼンチンのブエノスアイレスにオフィスを構えています。美術館から依頼を受けたのは2017年で、そこからGorricho Diseñoは2年間にわたって調査を実施しました。
ブエノスアイレスの美術館や博物館の多くは市街地の中央部と北部に集中しているのに対して、ブエノスアイレス近代美術館は南部の骨董市で有名な歴史地区サンテルモにあります。観光地ではありますが、美術鑑賞を目的とする人々に対しては地理的に不利なため、美術館はそれを克服する必要があったのです。
Gorricho Diseñoはまず数ヶ月をかけて、美術館がどのように認識されているか?何が期待されているか?を調査しました。美術館のすべての部門のスタッフ、さらには他の美術館の館長やキュレーター、来館者までインタビューが実施されました。また、展示作品・収蔵品、美術館が発行した過去のプログラムや書籍も調査の対象でした。その結果、美術館とそのコミュニケーションの実情が明らかになったのです。
「ブエノスアイレス近代美術館の真の価値を市民に伝えることができていませんでした。市民は美術館が実際よりも遠くて活気がないと認識してました」(Gorricho Diseñoサイトより)
呼称の再検討からスタート
館長のVictoria Noorthoorn氏は2013年に就任して以来、ブエノスアイレス近代美術館の改革を積極的に進めてきました。
今回のリ・ブランドもその一環なのですが、Noorthoorn館長は呼び名を変えたいという希望を持っていました。同美術館は時期や人によって呼び名がまちまちでした。頭文字でMAMBAまたはMAM、または「el Moderno」(エル・モデルノ、スペイン語。英語のthe Modernの意)が混在し、正式名称を知らない人も多くいました。MAMBAはブエノスアイレス・ラテンアメリカ美術館の略称MALBAとも類似しています。
Noorthoorn館長はニューヨーク近代美術館(Museum of Modern Art)で働いた経験があり、MoMAが内部では「the Modern」と呼ばれていたのが頭にありました。館長はそれと同様にブエノスアイレス近代美術館も「el Moderno」が定着することを望みました。広報宣伝などのコミュニケーションツールでその呼称を使いましたがうまく浸透しませんでした。
調査を実施したGorricho Diseñoスタジオも名称の混乱をまず解決すべきだと考えました。そこで、頭文字の略称MAMBAやMAMから離れたいという館長の希望を受けて決定した呼称が「Museo Moderno」(ムセオ・モデルノ、スペイン語。英語のModern Museumの意)です。Museo Moderno、すなわち「近代美術館」といえばブエノスアイレス近代美術館が人々の頭に浮かぶようにすることで混乱の解消を目指したのです。
美術館の「声」となる書体の追求
美術館の価値が正しく伝わっていないという課題を解決するために最初に着目したのが、ブエノスアイレス近代美術館にふさわしい書体の創造です。新しい書体によって同美術館だけの特別な「声」を視覚的に作り出し、美術館の起源と本質を伝えることにしました。
「書体は美術館の声です」(Martín Gorricho氏)
「これまでの書体は権威を示すような力強い、おそらくどちらかといえば男性的なものでしたが、実情にはそぐわないものでした。私たちの美術館は40もの様々なコミュニティとともに活動していて、ますます柔軟になってきています」(Noorthoorn館長談)
ブエノスアイレスを拠点とするフォントデザインスタジオOmnibus-Typeは、Gorricho Diseñoとともに数ヶ月間にわたって収蔵作品群や過去の印刷物を調査しました。調査でわかったことのひとつが美術館から発行された最初の印刷物の書体が幾何学的なサンセリフの「Futura」(フーツラ)であることです。
その美術館の原初の「声」を復活させるために、その後の70年間の変化を考慮に入れながら現状にふさわしいフォントを追求しました。
基準となったのは、美術館が所蔵しているアルゼンチン出身の画家やデザイナーの近現代の作品です。収蔵作品群の調査分析の結果、美術館のコレクションと20世紀前半の芸術運動にインスピレーションを得た幾何学的な書体が生み出されました。オリジナル書体を採用したブランド・リニューアルについてNoorthoorn館長がFacebookで次のように発信しています。
「新たな段階にきた美術館を表現していると私たちが感じるアイデンティティにたどり着きました。すなわち、ダイナミックで活気に満ちて、若々しく、インクルーシブで遊び心にあふれたアイデンティティです」
オリジナル書体「MuseoModerno」
新しく作り出されたオリジナル書体は「MuseoModerno」と名付けられました。均一の太さで構成されたフォントはバウハウス的印象を与えます。大きな特徴は異字体(オルタネート)や合字(リガチャ)が豊富に準備されていることです。
新ロゴのシンボルマークもモノグラムとして特別に作られたのではなく、「MM」の合字としてフォントセットの中に組み込まれたものなのです。MuseoModernoフォントはブエノスアイレス近代美術館のサイトから無料でダウンロード可能です。
デザインスタジオ「Gorricho Diseño」
Gorricho Diseñoは、グラフィックデザイナーでイラストレーター、そしてブエノスアイレス大学教授でもあるMartín Gorricho氏が2003年に創設したデザインスタジオです。南米・北米・ヨーロッパのクライアントにブランディングやアイデンティティ・システム、グラフィックデザインなどを提供しています。手がけたブランディング・プロジェクトには、国立セルバンテス劇場、レコレータ文化センター、ラテンアメリカ社会科学大学院(FLASCO)などがあります。
フォントデザインスタジオ「Omnibus-Type」
Omnibus-Typeはブエノスアイレスのフォントデザイン専門のスタジオです。ブランディング用のオーダーメイド・タイプフェイスの制作を中心に活動。オリジナル書体以外にも、既存フォントへのウェイトやスタイルの追加、グリフの追加、画面表示用への適正化、別言語用セットの開発などのサービスを提供しています。また、フリーフォントも複数リリースしていて、「Chivo」「Saira」「Barrio」といったオリジナル書体がGoogle Fontsで入手可能です。
ブエノスアイレス近代美術館
1956年に設立されて以来、ブエノスアイレス近代美術館はアルゼンチン国内外の近現代アート作家の作品をコレクションとしてきました。現在では20世紀から21世紀の作品を中心に7,000点以上所蔵しています。2018年には床面積11,000平方メートルに拡張してリニューアルオープンしました。展示スペースは7,000平方メートルにおよび、10室のホールを備えています。
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