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お酒のロゴとエピソード

歴史と伝統のある、世界のお酒のロゴデザインたち

お酒のロゴとエピソード

みなさんはお酒を選ぶとき、どのような観点から選びますか。

アルコールを飲まないと決めている人、または、全く飲めない人も珍しくありませんが、飲んだことのないおしゃれなボトルに洗練されたロゴマークが付いているお酒を見ると、ちょっと試してみようかな、と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

お酒を楽しむ

また、お酒が好きで、自分のお気に入りの銘柄がある方は、その見慣れたボトルやロゴデザインを目にすると、親しみを感じたり、信頼感を覚えたりすることも怏々としてあるかと思います。摂取時の心身の高揚感や、それぞれの風味や味から、味覚や嗅覚を楽しむことのできる嗜好品であるアルコールは、紀元前から始まる長い歴史を経て、世界中で愛されてきました。

今日は、何点かのお酒のブランド・企業を例にとって、そのロゴデザインについて考察してみましょう。

 

1)ジム・ビーム バーボン(Jim Beam Bourbon)のロゴ

ジム・ビームのロゴデザイン

monticello / Shutterstock.com

ジム・ビームは、アメリカ合衆国ケンタッキー州のクラーモントに蒸溜所を置き、200年以上の伝統を持っているお酒です。

ドイツからの移民であった初代ヨハネス・ヤーコプ・ボーム(Johannes Jacob Böhm、1770−1834)が、かの地に蒸溜所を設置、自らの農地で栽培したバーボン・ウイスキーを1875年に販売したのが始まりでした。ヨハネス・ヤーコプ・ボームは、後に英国風にジェイコブ・ビーム(Jacob Beam)に改名、この創業者の名前が、現在に至るまで7世代に渡ってつくられるこのお酒の名称の起源となっています。

ビーム家のバーボンは当初、『オールド・タブ(Old Tub)』という名前で売られていました。いっさいバーボンを作れなかった時期、1920年から1933年まで続いたアメリカ合衆国での禁酒法期間を経て、1943年に、この禁酒法の苦難を乗り越え、1934年にバーボン・ウイスキーづくりを再開した四代目に当たるジェームズ(ジム)・B・ビームの名を採って『ジム・ビーム』と改められました、以後このお酒の銘柄の正式な名称となります。

名前の由来や歴史的観点からみても、ジム・ビームは創業当初からの伝統のあるブランドと言えるでしょう。企業としてのビーム社は、2014年にサントリーが買収、ビーム・サントリー(Beam Suntory)社となっています。

ここで、このジム・ビームのロゴマークを見てみましょう。扇状に配置されたローマン体フォントのジム・ビーム(Jim Beam)の字の下に、黄金のリボンと赤いシーリングワックスをあしらった図柄の中に『B』の字が記されたロゴデザインです。シーリングワックスは日本語では封蝋「ふうろう」と呼ばれます。

シーリングワックス

・シーリングワックス

17世紀頃よりヨーロッパの王侯貴族たちに愛されたこのシーリングワックスは、手紙の封筒や文書に封印を施したり、瓶などの容器を密封するために用いられる蝋です。手紙や文書に関しては、この蝋の上にシーリングスタンプと呼ばれるハンコのような型で刻印することで中身が手つかずの証明も兼ねていました。シーリングスタンプは、差出人個人やその人物の家系のシンボルが刻まれていて、差出人を証明する証であるのが特徴です。

ウイスキーやブランデー、ワインなどの高級酒のボトルや香水のパッケージの封にも、手紙や文書と同様にシーリングワックスを手作業で施されたものも存在します。製造者の証明や中身が重要なものと示唆するシーリングスタンプをモチーフにしたこのジム・ビームのロゴデザインは、その歴史・伝統性そして高級感や重厚感を視覚的にユーザーに伝えることに成功したロゴであると言えます。

 

2)ハイネケン(Heineken)のロゴ

ハイネケンのロゴ

lOvE lOvE / Shutterstock.com

ハイネケンはオランダのビール醸造会社ハイネケン・インターナショナル(Heineken International N.V.)の主要ブランドです。

今や、世界の190以上の国や地域で愛されるビールとなったハイネケンの歴史は、1860年から1970年代にかけて、ジェラルド・A・ハイネケン(Gerard Adriaan Heineken、1841−1893)が、オランダ、アムステルダムの中心地の一画を買い取り、醸造所を建設したところから始まります。ここから、オランダ初の『プレミアム』ラガービールとなるハイネケンビールが誕生し、一つ一つのボトルにスタンプされたハイネケンという名前は、オランダ国家が代表する品質のシンボルとなりました。創業約140年の歴史をもつこのハイネケンですが、こちらもジム・ビーム同様、創業者の名前が銘柄の名称となっており、現在はハイネケンファミリー4代目がプレミアムビールの醸造を営んでいます。

ハイネケンビールのラベル、ロゴデザインの歴史を見てみましょう。創業当初の古いラベルをみると、赤色が使われていたものが何点かあります。モチーフも様々でいろいろのタイプが存在しましたが、注目する点は、ラベルに『Amsterdam(アムステルダム)』もしくは『Rotterdam(ロッテルダム)』とオランダの醸造所の都市名が記載されていたことです。これは、1950年代にハイネケンが世界市場へと展開するまで、当時のハイネケンビールはオランダ国内を主要に販売されていたことと関係があるかと考えられます。

1948年以降のラベルは、現在のハイネケン・カラーでおなじみのグリーンを採用。1960年移行のラベルに記載されている文字は、『Brewed in Holland(オランダで醸造)』に変わりました。

ハイネケンのロゴ

360b / Shutterstock.com ・ハイネケンは派生ロゴが多い

現在使われている基本のロゴデザインは、グリーンの背景をベースとした、黒色の図柄の上に白ぬきで『Heineken』の記載、白く縁取りされた赤い星と植物の絵柄が上下に配置されているものです。

ハイネケンビールは、品質保証の宣伝やイメージアップを計りながら、全世界に展開し続けています。これに関連して、ハイネケンのロゴデザインは、ユーザーのデバイスに関係なく画面のサイズに応じて表示を変える『レスポンシブ・デザイン』に対応していていることも特徴のひとつです。

このハイネケンレスポンシブ・ロゴは、「基本のロゴから植物の絵柄を除いたもの」、「黒色の図柄を外し、白ぬき文字と白く縁どりされた赤い星のみのもの」、そして一番シンプルなものは「背景のグリーンに白く縁どりされた赤い星のみのもの、となっています。

 

3)バカルディ(Bacardi’)

バカルディのロゴ

Keith Homan / Shutterstock.com

バカルディの歴史は、スペインのカタローニア地方の土木業者であったドン・ファクンド・バカルディ・マッソー(Don Facundo Bacardi’ Masso’、1814−1886)のファミリーが、1830年代にスペインの植民地であったキューバのサンティアゴへ移住したところから始まります。

1844年から1855年にかけて、キューバでの地震、伝染病コレラの蔓延、経済破綻等の災害を受けてしまうドン・ファクンドですが、その間、キューバで地元の人たちに好まれていたラムの蒸留実験を繰り返します。当時のラムは荒削りで「火のような」という表現がぴったりの蒸留酒でした。ドン・ファンクドは、原料であるサトウキビの選別や醗酵や濾過の仕方、蒸留の方法など改良・改善を重ね、今までのラムとは全く異なった、まろやかで軽い洗練されたラムを生み出しました。

1862年、このライトな新しいラムを生産するために、小さなトタン屋根の蒸溜所を買い取り、自分の名前を冠した会社、バカルディ社を設立します。世界最大のラム酒ブランドとなったバカルディはこうして誕生しました。

バカルディのロゴマークの大きな特徴は、モチーフである『コウモリ』です。このコウモリ・ロゴも、バカルディ社の創設と同様、歴史があるロゴデザインです。

19世紀の中頃では、まだ文字の読み書きが出来ない人が多かった事情も含め、ドン・ファンクドは、大衆が他のそれまでのラムとは違う自分の作ったラムを識別できる印象的なロゴマークを必要としていました。買い取った蒸溜所の近くに大きなコウモリの集落があり、ドン・ファンクドの妻アマリア・モレウ(Amalia Moreau)が初めて蒸溜所に入った時、垂木にコウモリが群生しているのに気づいたそうです。コウモリ

現地では、コウモリは健康、富、家族の団結などをもたらすと信じられていた幸福のサインであったので、自社のラムのロゴマークにこのコウモリを採用しました。その後現地の人々に「ドン・ファクンドのラムはコウモリのラム」として広く知られるようになります。 初代のバカルディ・ラムのロゴデザインは、コウモリの絵柄と共に黒字で『Bacardi’ M』(『M』はドン・ファンクドのもう一つの苗字Masso’からきています)と記されたものでした。

バカルディの旧ロゴ

360b / Shutterstock.com ・バカルディの旧ロゴ

創業から今日に至るまで、バカルディと言えばコウモリという感覚が定着しています。2014年には、同じコウモリをモチーフとしながらも、それまでのロゴに比べてシンプルで、マークとしてクリアな図柄にリニューアルを遂げました。

 

4)ギネスビール(Guinness Beer)のロゴ

ギネスビールのロゴ

Anton_Ivanov / Shutterstock.com

ヨーロッパに限らず、世界各国のパブやバーに置いてあるビールといえばこのギネスビールですね。独特な深い琥珀色、苦み、そしてクリーミーな泡立ちのギネスビールは、日本でもファンの方が大勢いるのではないでしょうか。

ギネスビールは、1759年アイルランドのダブリンにて、創業者のアーサー・ギネス(Arthur Guinness、1725−1803)によって製造、販売が始まったアイルランド産のビールです。1700年代から1800年代にかけて、アイルランドはイギリスの植民地であり、イギリスからの独立の機運が高まっていた時期でもあります。アーサー・ギネスは、この焙煎された麦芽の風味とポップの風味のバランスがとれた黒色のアイルランドのギネスビールを世に送り出すことで、イギリスを見返したいという強い熱望を持っていたそうです。

1756年に設立したギネス社(Guinness&Co.)はその後、世界一の規模のビール会社へと発展していきます。ギネスビールの世界的ヒットの要因は、その品質・クオリティーに加え、広報活動に力をいれたことにもあります。有名なオウムをキャラクターとした数々のポスターの制作や「Guinness is good for you」をはじめとするキャッチコピーを駆使してきました。

ギネスビールのロゴには、このアイルランド国家を愛する精神モチーフのアイリッシュ・ハープを通して表れています。アイルランドは音楽を愛する国家として有名で、楽器を公式な紋章に使用している世界で唯一の国でもあります。

アイリッシュハープ

・アイリッシュハープ

アイルランド政府発行の公式書類やアイルランドのユーロのコインには全てこのアイリッシュ・ハープの紋章がデザインされていてアイルランドの象徴的なシンボルです。また、アイルランドの企業に至っても、ライアンエアーをはじめこの紋章を用いるロゴが少なくありません。

ライアンエアーのロゴデザイン

Davide Calabresi / Shutterstock.com ・ライアンエアーのロゴ

国家を誇りに想い、その発展を望んだ熱い願いが、このギネスビールのロゴの本意なのです

 

5)ジャックダニエル(Jack Daniel’s)のロゴ

ジャックダニエルのロゴデザイン

 Jozef Sowa / Shutterstock.com

ジャックダニエルの歴史は、今から150年前に溯ります。

1866年、ジャスパー・ニュートン・ダニエル(Jasper Newton “Jack” Daniele、1850−1911)が自作のウイスキーを自分の名前の刻んだ陶器の入れ物に詰め込み販売を始めたのが起源です。同年、アメリカ合衆国テネシー州リンチバーグのジャックダニエルの蒸溜所は、アメリカにおいての初の公認の蒸留所となりました。

このジャックダニエルも、長い歴史を持ち創業者の名前が名称となった銘柄ですが、創業当時から今日に至るまでのポスターやラベル、ロゴを見て気づくことは、小さな変更や配置の変化はありましたが、一貫して文字を中心としていてモノクローム主体のデザインであることです。

ロゴデザインを形成する文字には数多くのフォントが使われているにも関わらず、重厚で整然としたもの印象を与えています。多くのロックミュージシャンに愛飲されているお酒としても有名なジャックダニエルです。ハードボイルドな様相のロゴデザインをギターやベースに描くミュージシャンも多くいることも特徴のひとつです。

 

6)スミノフ・アイス(Smirnoff Ice)のロゴ

スミノフアイスのロゴデザイン

 Prachaya Roekdeethaweesab / Shutterstock.com

1860年にロシアのモスクワにピョートル・アルセニエヴィチ・スミルノフによって創業されたスミノフは、1886年にロシア皇室御用達を得たウォッカのブランドです。

その後、ロシア革命でフランスを経てアメリカに亡命、現在ではイギリスのディアジオ社の傘下に入っている、世界史や経済史に沿った生い立ちを持ったブランドです。スミノフ・アイスはスミノフ・ウォッカをベースにしていて、レモンやアップルなどフルーツテイストのカクテル飲料です。

基調の鮮やかな赤色と大きなはっきりとしたフォントを使用したスミノフのロゴは、1920年代にロシアで広まり、タイポグラフィーを多用し、多くのプロパガンダ的な作品を誕生させたロシアン・アヴァンギャルドの風貌を忍ばせます。

気軽に楽しめるカクテル飲料のスミノフ・アイスのロゴは、基本の赤いロゴに加え、テイストをイメージできるポップな色彩豊かなバリエーションで構成されています。

 

7)アブソルート ウォッカ(Absolut Vodka)のロゴ

アブソルートのロゴデザイン

Robcartorres / Shutterstock.com

さて、最後はスウェーデンに本社を置くV&S社から販売されているウォッカのブランド、アブソルートです。

400年以上も前からウォッカの生産を行っていたスウェーデンにて、アブソルート ウォッカがその歴史を刻み始めたのは、『ウォッカの王』としても有名なスウェーデン人企業家ラーズ・オルソン・スミスが『アブソルート・レント・ブレンヴィン』を発表した1879年のことでした。「ブレンヴィン」とはスウェーデン語で「燃えるワイン」の意味です。

今日では、世界の蒸留酒のランキングで上述のバカルディ、スミノフに続く第三番目に位置にしています。アブソルートのロゴの特徴は、なんといってもその爽やかな青色、文字にはFuturaやExmouthといった洗練された書体で構成されていることでしょう。

瓶の透明感

AlenKadr / Shutterstock.com ・瓶の透明感もポイント

また、ウォッカのクリアなイメージを重視するために、数百年のスウェーデンのガラス工芸に基づく鉄分の少ない透明でスタイリッシュなボトルに、ラベルではなくロゴデザインを直接スタンプしたデザイン的価値の高いパッケージであることも注目すべきポイントです。




ちなみに、Swedish House Mafiaとコラボレーションしたミュージックビデオもお洒落です。
各社イメージ戦略においても、個性的です。


まとめ

今や、数多くのお酒が世の中に出まわる時代ですが、各々のアルコールブランドの価値は、名称、味、クオリティー、歴史性、または場合によっては希少性などにより、高まったり下がったりするものです。お酒のロゴデザインは、まさにそのブランド性を総括した大事な『顔』です。それぞれの歴史やブランドに対する想いが詰まっているお酒のロゴデザインをみてきましたが、みなさまはどのように感じましたか。

 

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