Skip links
Dan Perri - デザイナーアーカイブ

ダン・ペリ(Dan Perri)- ソール・バスの薫陶を受けた映画タイトルデザイナー

Dan Perri - デザイナーアーカイブ

物語の背景を説明するテキストが大宇宙をバックに画面下方から奥へ向かってゆっくりと流れていく『スターウォーズ』(1977年)のオープニング・クロールを見たことがある人は多いでしょう。その印象的なシークエンスは多くの亜流やパロディを産みました。

監督ジョージ・ルーカスの要望を受けて、そのあまりにも有名なオープニングをデザインしたのがダン・ペリ(Dan Perri)です。70年代の『エクソシスト』や『タクシードライバー』『ウォリアーズ』といった映画のタイトルバックでダン・ペリは一躍脚光を浴び、それ以降も数々の名作・ヒット作に関わった映画タイトルデザインの第一人者です。

 

ダンを有名にした『エクソシスト』のタイトルデザイン

ダン・ペリの名前が注目されたのは世界中で大ヒットしたホラー映画『エクソシスト』(The Exorcist、1973年)でした。

動画を見る (via YouTube)

映画の冒頭ではワシントンDCの閑静な住宅街の夜の風景が映し出されます。そこから聖マリア像のアップに変わると画面は暗転。弦の不気味な音をバックに赤い文字で、監督の名前と原作者の名前が続けてフェードイン・フェードアウトします。そして映画タイトル。使われている優雅なローマン体フォントは1931年にエミール・ルドルフ・ヴァイス(Emil Rudolf Weiß)が作った「Weiss Initials」(ヴァイス・イニシャルズ)です。

原作とのつながりを示すために、書籍の表紙と同じ書体が選ばれました。スクリーン上では黒バックに赤い文字は膨張しがちなので適切な赤を決めるためにペリはテストを繰り返したそうです。ペリはこの作品のプロモーション用のグラフィックスも担当し、ティーザー広告手法によるポスターも制作しました。『エクソシスト』の大成功のおかげでダン・ペリには有名監督からの仕事が引きも切らず舞い込むようになります。

 

映画の個性と一体化したタイトル

ダン・ペリが現在までにタイトルをデザインしてきた映画やテレビ番組の作品数は300とも400とも言われています。しかし、ダン・ペリ・スタイルといったような一貫した個性が際立ったものではなく、むしろ映画ごとに変幻自在です。ペリは「Production Designers Collective」のインタビューで次のように語っています。

「(タイトルデザインは)映画の感情と情緒を呼び起こして伝えなければいけません。文字やグラフィック要素を使って映画の肌触りやニュアンスを観客にそれとなく伝えるのです。いったん始まると観客はすでに映画に馴染んでいるというわけです」

非常にうまくいった例として『タクシードライバー』(Taxi Driver、1976年)をペリは挙げています。マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演のこの映画は都会の孤独をテーマにしています。

「先に言ったような感情とかニュアンスを正しく伝えられる要素を見つけ出すための調査に多大なエネルギーを注ぎました。私のベストの作品です」

動画を見る (via YouTube)

そのオープニングはニューヨーク名物の水蒸気の中を獣のようにゆっくりと動くタクシーのスローモーションで始まります。スネアドラムが印象的な陰鬱な音楽と都会的なサックスのフレーズが錯綜する中で役者やスタッフが紹介されていくのですが、ペリが言うようにタイトルバックと映画は一体となり、観客は気づかぬうちに映画の世界に引きずりこまれています。

 

動画を見る (via YouTube)

また、『ウォリアーズ』(The Warriors、1979年)はストリートギャングを扱ったアクション映画ですが、壁の落書きに使われるスプレー缶を使った手書き文字でタイトルがデザインされました。冒頭から物語は進行し、結構長めのインターバルをはさみつつ列車が走るシーンにシンクロしながら役者やスタッフが紹介されていきます。

 

スティーブン・スピルバーグ『未知との遭遇』のロゴデザイン

スティーブン・スピルバーグのSF映画『未知との遭遇』(Close Encounter of the Third Kind、1977年)でペリは監督からロゴ制作の依頼を受けます。当時としては珍しいことですが、スピルバーグは映画の「ブランディング」に関心があったそうです。ペリは台本を読んでSFらしいロゴを作ります。

ベースとなったフォントは「Handel Gothic」(ヘンデル・ゴシック)です。

ヘンデル・ゴシック

そのロゴを使ったTシャツやステーショナリーが作られ、ロゴステッカーはコンテナボックスなど映画製作に関わるありとあらゆるものに貼られました。スピルバーグはそのロゴを使ったタイトルバックもペリに依頼し、さらには広告プロモーションを託します。配給会社がニューヨークとロサンゼルスの大小の広告会社にプロモーションアイデアを求めたのですが、スピルバーグにことごとく却下されていたのでした。

そんな中、もともと広告とグラフィックのバックボーンのあるダン・ペリが作り上げたのが、満天の星空の下に1本の道が画面奥へ向かって走り、その先に怪しい光が輝く、有名なビジュアルです。

ポスターデザインを見る (via Pinterest)

 

70年代80年代風タイトルデザインの復権

『レイジング・ブル』(1980年)、『プラトーン』(1986年)、『ロボコップ2』(1990年)、『アビエイター』(2004年)など数え切れないほどの作品にタイトルデザインを提供し続けてきました。

90年代の終わりから映画のタイトルの簡素化が始まります。オープニングシークエンスが主張し過ぎると本編と競合してしまうことや、早めにストーリーを開始したい監督がタイトルに制限を加えるようになります。また、権利関係が複雑化してタイトルバックで表示すべき要素が格段に増えたことでエンドロールにほとんどが回されるようになりました。2000年代には、オープニングではタイトルが数秒表示されるだけ、といったものも増えました。

タイトルデザインを見る (via Pinterest)

しかし、最近また70年代80年代のようなタイトルシークエンスを求める若い監督が現れてきて、ペリにも助言を求めているようです。最近ペリ自身もリメイク版の『サスペリア』(2018年)を手がけています。

 

バングルズのビデオクリップ制作

動画を見る (via YouTube)

おもしろいことにペリはバングルズ(The Bangles)の曲「ホワット・シー・ウォンツ(If She Knew What She Wants)」(1986年)の公式ビデオクリップの監督をしています。バングルズは1980年代にヒットした「マニック・マンデー」「エジプシャン」などで知られる女性バンドです。

当時の他のオフィシャルミュージックビデオと比べるとペリが監督した映像はとても丁寧に作り込まれているのがわかります。

 

文字に恋した男

ニューヨーク生まれのダン・ペリは幼いうちに文字やタイプフェイス、グラフィックス、ポスターなどに興味を持っていました。

12歳のときにはすでに文字をうまく描けたので、地元のスーパーマーケットのポテトの値段を描いたのを皮切りに、レストランやカクテルラウンジなどのショーカードや飾りのデザインをします。高校の美術教師が広告代理店のアートディレクター出身で、その教えに従ってペリは広告雑誌やグラフィック誌を読んで勉強しました。高校時代は彼女の指導のもとでポスターを始めさまざまなグラフィック作品を制作。

高校卒業後はアートセンター・カレッジ・オブ・デザインへ入学します。学校の始まるまでのわずかのあいだには広告代理店で見習いとして働きました。1年半で別のカレッジに移り、グラフィックの勉強をしながら、フリーランスデザイナーとしての仕事もします。記者として過ごした海軍時代を経たのち、友人と事務所を構えるなどして低予算映画やテレビ番組のタイトルデザインを請け負いました。それは『エクソシスト』でのブレイクまで続きます。

 

高校時代のアイドルはソール・バス

ソール・バス(Saul Bass)はコマーシャルアートのピカソとも称されるグラフィックアートの巨人です。シンプルでミニマルな企業ロゴで米国の風景を変えたと言われました。また、役者やスタッフを淡々と紹介するだけだったタイトルバックに革命を起こし、タイトルバック自体に「タイトルデザイン:ソール・バス」とクレジットされるほど映画界に大きな影響を与えました。

ダン・ペリは高校時代にソール・バスの作品にほれ込み、そのスタイルを身につけます。さらにロサンゼルスのソール・バスのオフィスを探し出し何度も訪れます。「ほとんどストーカーのようでした」とはペリ本人のことば。バスの右腕というイラストレーター、アート・グッドマン(Art Goodman)と親交を深めたりしながら、とうとうバスに会う機会を得ました。バスはペリを励まし、数ヶ月ごとにペリの作品を見て、メンターとして指導しました。

 

Dan Perri(ダン・ペリ) 
1945年~
米国
映画タイトルデザイナー


【参考資料】
Dan Perri、Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Dan_Perri)
Dan Perri – OFFSET(https://www.iloveoffset.com/dan-perri/)
Dan Perri: A Career Retrospective — Art of the Title(https://www.artofthetitle.com/feature/dan-perri-a-career-retrospective/)
The Exorcist (1973) — Art of the Title(https://www.artofthetitle.com/title/the-exorcist/)
Dan Perri – Movie Title Designer(http://www.danperri.com/)
Title Design: A conversation with Dan Perri(https://www.productiondesignerscollective.org/single-post/2018/04/22/Title-Design-A-conversation-with-Dan-Perri)
名作映画を支える「タイトルデザイナー」という仕事|WIRED.jp(https://wired.jp/2016/07/31/movie-title-designer/)

最後までお読みいただきありがとうございます。共感する点・面白いと感じる点等がありましたら、【いいね!】【シェア】いただけますと幸いです。ブログやWEBサイトなどでのご紹介は大歓迎です!(掲載情報や画像等のコンテンツは、当サイトまたは画像制作者等の第三者が権利を所有しています。転載はご遠慮ください。)




サイトへのお問い合わせ・依頼各種デザイン作成について


Home
ご依頼・お問い合わせ
Top