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より良いビジネスを作る方法とは

より良いビジネスを作る方法とは〜ビール産業からの洞察 – TEDxSanAntonio




サンアントニオを拠点とするFreetail Brewing Co.の創業者スコット・メッガー 氏が自身の経営の経験を基に、「スモールビジネスをいかに育てるか?」より良いビジネスの作り方について語っています。 ※以下翻訳内容です。

 

どうして市場が低迷してしまっているのか

市場は低迷しています。(資本主義経済市場が従来のあり方に行き詰まりを見せているとも解釈可能)

今回お話ししたいのは株式市場だとか特定の商品やサービスの市場についてではありません。

全体としての市場のシステムの概念について話したいと思っています。

経済学教授として、今現実に起きていることを認めるのはいささか痛みを伴いますが、解決策を得るためには何がおこっているのかを理解するのは重要です。

そして実は市場というのは素晴らしく良く機能するがために、逆に冷え込んでしまうこともあるのです。

市場はとても効率的で信頼できるものですが、その信頼性がかえって消費者としての我々を落ち込ませたりします。それによってコミュニティ(共同体、社会)が落ち込んでしまうことだってあるのです。共同体に生きる市民としての私たちをがっかりさせてしまうのです。

市場経済というシステムの概念は「需要」と「供給」に基づいています。

物を作る生産者がいて、消費者がそれを買う。もしその物が気に入らなければ、私たちは買いませんし、そのものは市場から無くなります。

市場の不具合は、消費者が生産者に何が欲しいかをしっかりと伝えられて、生産者はそれをうまく汲み取ってくれるだろうと想定することから起こります。

この思い込みによって、私たちみんなが心に留めておくべき真実から目を背けてしまっています。

それは消費者はいい機会がある限りなんでも消費するということです。それゆえ我々は消費者と呼ばれます。消費するのが消費者としての我々の仕事です。

現在の市場の低迷が信じられない人もいるでしょうし、市場経済のシステムの素晴らしさを信じて疑わず、市場は自然になんとかなるのだと思う人もいるかもしれません。

では、どのようにして市場が衰退してしまったのか?そしてある産業がどのようにしてこれを克服したのかを示す一つの例として、私自身が経済活動の分野で日々取り組んでいる仕事である、ビール産業について話したいと思います。

 

ビール産業について

「ビールといえば何?」と聞かれると、人によって回答は実に様々です。

アメリカの人口の半分の人たちにとっては、大抵の場合アンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)の提供する商品であり、30%の人たちにとってはミラーコーズ(MillerCoors)の商品ということになります。ドイツの人に聞くと、マウス(Maus Bräu)だとかスタイン(Stein)だという答えが返ってくることがあるでしょう。

自分の地元のビール製造工場が浮かぶはずです。

例えば自分がペルーの先住民だとしたら、「チチャ」という答えになるかもしれない。チチャはペルーの女性がトウモロコシを噛んで、麦芽汁の中に吐き出して作ります。発酵過程に必要な、デンプンを酵素に変える酵素を、唾液が含んでいるからです。

ポートランド出身なら、ビールといえば、一番身近にあって、一番泡立ちにくいか、逆に最もヒゲに泡が残るような物で、それこそが飲みたいんだと言うかもしれない(笑)

 

私の今日の気分はプリックリー・ペアー・ワイルド・エール(Prickly Pear Wild Ale)で、私のところにあるワイン樽の中で8ヶ月醸成した物です。カッコいい色ですよね。これを見てクール・エイド(Kool-Aid)だと思った人もいるかもしれませんが、これはビールです。乾杯。(笑。拍手)

 

私はビールを飲む言い訳のために、「ビールといえば…」論を展開したのではないですよ。

別に必要ないですからね。私がここで言いたかったのはバラエティ(多様性)が大切だということです。私たちは消費者としてそのことはわかっていますし、多様性の価値を認めています。

ですが、ビール産業は歴史的に常に多様性に恵まれていたわけではありませんでした。禁酒法以前、1500ものビール製造工場がアメリカにはありましたが、禁酒法の後、750にまで減ってしまいました。そして1980年には全米でわずか100しかなくなっていたのです。

どこの工場も作っているビールはほとんど同じアメリカン・ライト・ラガー(American Light Lager)でした。黄色で発泡性があって香りや味はほとんどない、でもたくさん飲めばとりあえず酔っ払える。当時アメリカのビールといえばざっとこんな感じでした。

どうしてこうなったかと言うと、市場というのは消費者の意向や期待を反映したものになるからです。

 

この時我々が今ビールと呼んでいる製品のコモディタイゼーション(Commoditization – 市場で魅力や価値、特異性を認められていた製品が、定着や飽和などによってただの一商品としてしか見なされなくなる過程)以外で、2つの重要なトレンドがありました。

消費者の嗜好が、バーのタップから注がれるドラフトビールから、ビンや缶にパッケージされたものへと移っていったのです。

これが起きるためには、コモディタイゼーションとともに、これら二つの製品をきっかけとしてビール会社が「規模の経済」を達成する必要がありました。

「規模の経済」の基本的な概念は、あるものの生産量が上がることで、その製品全体の平均的なコストが下がって、利益の増大が見込めるということです。

多くの企業で、以前は10の銘柄で合わせてだいたい年間100万バレルほどの生産量になるくらいの規模だったものが、今では1つの銘柄だけで年間100万バレルの生産量に達しています。

規模の経済の達成によってパッケージのコストが下がります。それゆえ敏腕なビジネスマネージャーは「規模の経済」を追求するのです。

 

しかし残念ながら、当時はビールの種類は1つしかなく、品質も必ずしも素晴らしいとは言い切れませんでした。

ハンバーガーを例にとって考えてみたいですが、ハンバーガーといえばマクドナルドで59セントで売られているものだとして、それ以外のハンバーガーが存在しないとしたら、この中でハンバーガーが大好きだという人はどれくらいいるでしょうか?

多分そんなに多くの人は大好きだとは思わないはずです。

あるいは、ワインといえば、ボックス入りのホワイト・ジンファンデル(White Zinfandel)だとして、それ以外のワインがなかったらワイン業界は成立しません。

多様性(バラエティ)が嫌いだという人はいないはずです。

例えば「近所の家と自分の家がみんな同じ外観だったら、もっと自分の家の見た目は良くなるのになあ」なんていう人はいませんよね(笑)

 

消費者は多様性を好む

私たちは多様性を好みます。

しかし、(皮肉にも)我々の期待・望みを反映した結果、市場からその多様性は失われてしまいました。そして(皮肉なことに)市場は私たち消費者の期待に背き、がっかりさせる結果になったのです。

結局のところ、製品は消費者のためにあります。消費者がいなかったら製品に存在意義はあるでしょうか? 製品は雇用を生み出すためにあるのではなく、消費者のために存在します。

クラフトビールの登場

市場は私たちの期待に反した形になり、その結果、あまり望まない商品一つが残りました。

しかし、その後1980年頃に素晴らしい事が起きます。クラフトビール工場の誕生です。

「規模の経済」とは全く無縁で、従来よりもはるかに非効率かつコストのかかる、小さな独立した工場です。

コストと効率は、12本1パックで10ドルのバド・ライト(Bud Light)や 6本1パックで10ドルのリアル・エール・ロスト・ゴールドIPA(Real Ale Lost Gold IPA)(私も昨晩その6本パックを買いましたが)との違いを考えると分かりますが、クラフトビールは、こうした大量生産型のビールに対してコストの面で圧倒的に不利です。

クラフトビール業界が志向したのは、「規模の経済(Economies of Scale)」ではなく、「信頼性の経済(Economies of Authenticity)」でした。まずはそこから始めたんです。

クラフト・ビール・ムーブメントの先駆けとなった人たちはスーパーでビールを見て、「どのビールもダメだ。パッケージの見た目は違うけど、中身はどれも全く同じだ。よし、自分が全く違うものを作ってやる!」と思ったことでしょう。

 

「信頼性の経済」というフィールド

このクラフトビール製造者たちから学べるのは、「規模の経済」を避けて「信頼性の経済(Economies of Authenticity)」のフィールドで活動ができるのだということです。

そして実際に彼らはうまくいきました。その活躍はめざましいものです。醸成工場はこの5年で40%も成長しました。一方、偉大なアメリカン・ラガー・ビールを自負するバドワイザー(Budweiser)は、5年で30%業績を落としてしまいました。

バドワイザーはカッコいい黒ラベルのヒット銘柄を選び出し、このビールを飲んだら自分はイケてる人になれるだろうと思わせるようなCMを流しました。なのに5年で80%も落ち込んでしまったのです。

大手ビール会社は市場を失いつつありますが、なんとかして自分たちの市場を守ろうとしています。その焦りからでしょう、自分たちのブランドネームをそこに張ることすら恥ずかしくなるような商品を作ってしまっています。

嘘だと思うなら、スーパーのビールコーナーに後で行ってみてください。どこが「ブルー・ムーン」を製造しているでしょう? ヒントをあげます。バド(バドワイザー)かミラーコーズ(MillerCoors)です。確率は50/50ですね。

囚人のジレンマ

クラフトビールメーカーは規模の経済を避け、自分たちは自分たちの好きなものを…本物を作るんだ!と言いました。そしてそれはうまくいきました。

人は品質の高いものに対価を払いたいと思います。ここまでで私たちがクラフトビール業者から学んできたこと、学んでおきたいことは、規模の経済が、いわゆる「囚人のジレンマ」をもたらすということです。

「囚人のジレンマ」とは、二人の仲間だった人間が警察に逮捕されて「相方が犯人だと言えば、罪を軽くしてやる」と言われて、黙秘しようか相棒を売ろうか悩む…というものです。そしてこの時起こってしまうのは、二人とも仲間の罪を認めてしまい、二人とも黙秘を貫いていた場合よりも罪が重くなってしまうという結果です。

「囚人のジレンマ」から得られる教訓は、一見最良に見える選択をすることで、最良ではない結果を招いてしまうということです。

「規模の経済」を最上の選択として追求することで、コミュニティにとって最善ではない結果をもたらしてしまうということがおこるのです。

 

私たちに必要なのは規模の経済を避け、信頼性の経済で活動する起業家なのです。規模の経済は常に誘惑のニンジンをぶら下げています。

どんなビジネスパーソンも

「この製品をもっと大量に作ればさらに価格破壊が起きる」

「もっとこれを追求すればコストがさらに抑えられて、利益が増やせる」

といったことを口にします。

しかし私たちはこうした姿勢にNOと言わなければいけません。

もしこの規模の経済を追い求めて行ったら、最終的には例えばいつの間にか47ものSUBWAYのチェーン店を所有していた…なんてことになるだろうからです。

SUBWAYはおいしいサンドウィッチを提供していますが、SUBWAYと同じものがもう一つあっても仕方がありませんよね。マクドナルドやアービー(Arby’s)と同じものをもう一つなんて必要ありませんし、フリーテイル(Freetail Brewing Company)だってもう一つ同じ会社が必要だなんてならないでしょう。

私たちに必要なのは、(各々の)起業家たちが情熱を注ぎ込んだ(個性あふれる)サービスです。

そして、そのためには起業家たちには規模の経済ではなく、信頼性の経済のフィールドで戦ってもらいたいわけです。

なぜなら、規模の経済がもたらす罠である「囚人のジレンマ」から抜け出せれば、クラフトビールの一件のように、起業家たちにとっての長期的な視野での利益が見込めるだけでなく、コミュニティ(共同体、社会)の活性化・発展すら期待できるからです。

今私たちの社会には、フランチャイズのレストランとは違う、街道に立ち並ぶ、地域に根ざした個性溢れる独立企業の数々があります。

市場の衰退を解決するには市場の仕組みに基づいた手法をとることです。

経済の専門家として、私は市場の理論を廃絶したいとは思いません。経済学からあらゆることを学びましたし、経済学理論は私が生涯背負っていく十字架のようなものです。

「規制が必要だ」とかそういうことが言いたいわけでもないんです。

とにかく私たちに必要なのは、人類を前進させるアイディアのために立ち上がれる人なんです。

そして解決策はシンプルです。ビジネスやコミュニティを改善・活性化したいなら、自分でやりましょう。より良いビジネスを展開して、より良い製品を作りましょう。

そして、そこで終わりではありません。起業家には責務(使命)があります。しかし、そんな起業家たちを支え、責任を分かち合い、例えば次のように起業家を諌められるような、デベロッパー(Developer。発展させる人)もまた必要なのです。

 

「君がショッピングセンターを建てたいと思っているのはわかっている。中央のコーナーに銀行があって、裏手には大きな日用品販売店があって、ファストフード店もあって、そのフロントにはドライブスルーもある。その他通常ショッピンセンターにあるあらゆるものが揃っている。でもそれはコミュニティではない。消費者への罠なんだ。がっちりと捕まってしまい、なかなか抜け出せない手ごわい罠なんだ。

そんな消費者の罠の中にいることで生きている人間として、私自身はこの話をしていますが、自分ではそれを冷静にありのまま認識し受け止めています。

とにかく、このような短期的視点に囚われた「囚人のジレンマ」的な罠を意に介さずに、より良いショッピングセンターを作ろうと苦心するような、デベロッパー(Developer。物事をさらに前進させる人たち)が私たちには必要です。

そして最後に、私たちにはリーダーが必要です。より良い社会へのビジョンを持ち、そのビジョンをみんなも共有できるようなインセンティブ・プログラム(”Incentive Programs”  やるべきことを促すための戦略)を組むことができるリーダーが。

 

レストランのチェーン店や国家規模での大きな取り組みは、短期的にはもう少し仕事が生まれる(増える)かもしれません。しかし、長期的には、それは社会(共同体)を壊してしまいます。

私たちには、ステーキやチキンのチェーン店だったり、ジャングルを店内のテーマにしたようなカフェ(おそらくレインフォレスト・カフェ(Rainforest Cafe)のこと)を抱えるような形での、都市の中心的存在としてのコミュニティセンターはもう必要ありません(笑)

そのようなものはコミュニティの中心地とはなりません。それは河の上に建つストリップ・モール(Strip Mall – 大型ショッピングセンター)のようなものです。そんなものは社会のためにはなりません。(笑。拍手)

 

我々のリーダとなる人は、インセンティブ(物事の誘因・起爆剤・促進する刺激、等)は金銭的なものであるべきといった、古臭い常識や固定観念にとらわれないでほしいと思います。

私たちはインセンティブの問題に対しても、従来より費用対効果の高い解決策を見いだすことができるはずです。

例えばB級のリアリティー系テレビ番組で取り上げられて有名になるために、豚に口紅を塗って政治家を揶揄するような風刺画を描くのではなく、(もっと前向きに自分たちが主体となって)地域のビジネスを支援することに注力した解決策が見つかるはずです。

私たち自身の社会(共同体)に投資をすることで、社会(共同体)は改善しますし、ビジネスも改善するでしょう。全てはそこから始まります。

 

最後の結びの言葉として(この)メッセージを贈ります。

起業家の皆さん、あなたたちに任せましたよ。

(短絡的な甘い)罠(規模の経済の誘惑)にかかることなく、(信頼性の経済で)より良いビジネスを作り上げてください。

デベロッパー(発展させる人。投資家などを指すと思われる)の皆さん、ビジネスにチャンスを与えてください。クラフトビール会社のような反骨心を持った企業を大切にしてください。

こういう人たちがあなたのセンター(ショッピング・センターやコミュニティ・センター)やあなた自身の発展も長期的な意味で改善してくれます。

都市の行政を担う人たちにも、このような反骨心を持った起業家を大切にしてほしいと思います。彼らのような人があなたの街をより良いものにしてくれるからです。

人はやりがいのあること、楽しいこと、ワクワクすることができる場所に住みたいと思うものです。より素晴らしいビジネスが溢れる街なら人は住みたいと思うでしょう。

改善し、前進しましょう。

ありがとうございました。

 

参照リンク : TEDxSanAntonio – Scott Metzger – Crafting Better Businesses – Insights from the Beer Industry – TEDx Talks (CC BY 3.0)
当記事はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(Creative Commons license / CC license)に基づいて編集しています。(記事内の画像・デザインや映像の権利は個別のライセンスにより保護されている場合があります。)

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